会社を良くするのもダメにするのも「社長」だ 起業の苦難を乗り越えた後にやるべきこと

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第2の項目は「衆知を集める」です。経営者になれば、当然、心掛けなければならないことだと思います。経営で大切なことは、社員のやる気を引き出すことでしょう。そのためには、経営者が、社員にものを尋ねることです。とかく、経営者は、自分がいちばん、この会社のことは知っているのだ、いや、知っていなければならないのだと思い、他人に、とりわけ社員にものを尋ねることを躊躇しがちです。

もちろん、いちばん知っているかもしれません。しかし、知っていても、社員に、その問題について「どう思うか」「君なら、この問題をどう処理するか」あるいは、「なにかヒントをくれないか」と尋ねる。むろん、経営者としての自分の考えを持ったうえでのことですが。ともあれ、辞を低くして、社員に折々に意見や考えを求めていくことはまた、社員が、社長は自分を頼りにしてくれていると、そこまで思わなくても、オレの存在を認めていると感じますから、社員のやる気を引き出すだけでなく、次に尋ねられたら、もっといい答えをしよう、そのためにはいろいろ勉強しておこうなどと自己啓発を自発的にするようになります。そうすると社員全体の厚みが出てくる。人材豊富な会社、倒産しない経営ができるということです。

できるだけ仕事を社員に任せる

3つ目の項目は、できるだけ、仕事を社員に任せること。いわゆる「権限移譲」をすることです。特に起業した経営者は、すべてを自分がしなければ心配だということで、抱え込むということをしがちです。しかし、そのようなことをすれば、社員が成長しませんし、また、経営者として、能力的というよりも、時間的物理的にオーバーフローになり、自滅してしまいます。社員が頼りないと思うかもしれませんが、私の経験からすれば、予想以上に私よりはるかに大きな実力を発揮してくれることがほとんどでした。心配は無用。どんどん権限を委譲し、そして、自分は経営者として、新しい仕事、新しい事業に取り組んでいく。そのようなことができるかどうか。

とはいえ、任せたからといって、任せっぱなしはいけません。なにごとも、「ぱなし」は許されません。指示の出しっぱなし、言いっぱなし、売りっぱなし。任せるにしても、任せた最初の頃は、激励と方針が守られているか、確認のために報告させる、あるいは、社長自ら連絡する。もちろん、仕事、立場にもよりますが、2~3年間は、「任せて任せず」の心持ちで、権限を委譲した社員を見ていく必要があります。そして、もう大丈夫だ、もう任せきることができると確信したら、「君、しっかりと全責任を持って取り組んでくれ」と伝えることです。ついでに付け加えておきますが、「権限」は委譲しても「権威」は放棄してはいけないということです。「権威」とは、「人間として、やるべきことをやり、やるべからざることは絶対にしない、というところから生まれてくるもの」だということ。そのように心得ておくことが大事。要は、「さすが社長」と社員に思わしめる言動をすべきだということです。

4つ目は、社員に「感動」を与えること。これが経営をしていくうえで、極めて重要だということです。そのためには、社員に手を合わせる心持ちを持つこと。この頃、社員を、部下を褒めて使え、褒めろ、褒めろの大合唱ですが、しかし、その言葉に心が、すなわち、心の中で社員に手を合わせていなければ、それは口先だけ。すぐ社員に見破られてしまうでしょう。その心なくして、口先だけで褒めても、社員は感動しません。要は社員の人格をしっかりと尊重できるかどうか。その心が感動を与えることになるということです。

この「感動」を与えることの大切さは、稿を改めることにしましょう。ベンチャー企業が永遠に存続するために、いち早く「点から線」「企業から経営」に、考え方を切り替えることが大切ではないかと思います。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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