設備投資に頼った成長戦略は、最悪の選択 増税による景気悪化に備え、設備投資減税をしても効果なし

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しかし、なぜか、設備投資に対する反省は全くなく、設備投資が失われたことが日本経済の停滞理由のように勘違いしているエコノミスト、政治家が多い。経営者も同じだ。

シャープもパナソニックも、経営危機に陥っているのは、テレビの生産ラインに設備投資しすぎただけのことだ。テレビが売れなくなったのが悪いのではなく、いつかは売れなくなるに決まっているテレビに過剰投資したのが問題なのだ。しかも、研究開発ではなく、生産設備に投資し、その能力差で勝負しようとしてきた。それこそが間違いだ。設備投資さえしなければ、最初から鴻海(ホンハイ)精密工業など、ファウンダリーと呼ばれる製造請負を使い、研究開発にだけ集中していれば、投資額は限定的だったはずだし、テレビが不振になっても、企業の存続まで脅かされるリスクとはならなかったはずだ。

「設備投資神話」の終焉

なぜか、みなが依然として設備投資神話を信じているのだが、しかし、設備投資では現在の日本経済は成長できない。設備投資偏重をすぐに改めることこそ、日本の成長戦略だ。

もはや設備投資は、需要として望ましい需要ではない。設備投資をありがたがるのは、設備投資が需要となり、その需要が他の企業の設備投資を誘発し、これも需要となると幻想を抱いているからである。しかし、現在ではこれは成り立たない。

昭和30年代の日本経済は、投資が投資を呼ぶと言われた。異常に好循環の高度成長経済だった。一つの企業が投資をすれば、それは有効需要となり、他の企業がこの需要増加に対応して投資を増やす。これがまた別の企業の投資を増やし、と循環していく。この中で、資本蓄積が進み、設備が増えていくから、労働生産性は向上する。

そうなると、賃金も上がり、これが消費を増加させ、需要はさらに増大し、その需要に応じて、さらに投資が進む。最高の好循環で、日本経済は面白いように成長し、そして生産される製品の質も一気に向上し、質、量、価格、すべての面で国際競争力が急速に上昇していったのである。

しかし、今の日本ではこれは起きない。それは高度成長構造ではないからだ。需要が右上がりでない。人口は増えない。地方から都市への人口流入もない。核家族化もこれ以上進まない。したがって、消費の規模の拡大は起きない。一方、正規雇用などへの希望は強いから、労働生産性が上昇しても賃金は簡単には上がらない。所得は増えない。消費拡大も起きない。

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