設備投資に頼った成長戦略は、最悪の選択 増税による景気悪化に備え、設備投資減税をしても効果なし

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しかし、今の設備投資は自己都合だ。自社のことしか考えていない。顧客を見ていない。ライバル企業しか見ていない。ライバルに勝つために、ライバルよりも生産効率を上げるために、生産設備を最新鋭の最大規模のものにする。テレビのスペックを上げ、夢の3D技術を実現する。高精度の4Kテレビを導入する。これらは、自分たちのやりたいことをやっているだけだ。世界最高のテレビを作るのはいい。しかし、顧客の多くはそれを求めていない。生産者の自己満足だ。

だから、設備投資は失敗するのである。設備投資減税で行う設備投資も顧客を見ていないという点では同じだ。税金対策の投資である。コストだけを考えた投資である。新しい顧客を見ない投資は意味がない。グローバル市場というだけで、個々の顧客を見ていない。日本以外の市場ではコストが勝負と思い込んでいる。韓国にコストで勝てばいいと思っている。違うのだ。グローバル市場とは、日本を含め、個々のローカル市場の積み重ねに過ぎない。

グローバルのローカルな個々の顧客をみないで設備投資する。政府によって無理やり生み出された設備投資をする。こうした投資を行っていては、将来にわたって、真の顧客から継続的に需要を勝ち取るノウハウの蓄積につながらない。さらに、過度な設備投資をしていれば、真の持続的な需要をつかめなかったとき、即座に財務的な危機となる。

したがって、政府が無理やり設備投資減税を行い、それにより設備投資を行い、短期的に需要を生み出すことによる「短期成長戦略」は、企業を破綻に追い込む、最も危険な“成長戦略”なのである。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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