納得!「料理キット」が売れ続ける根本理由 別に手抜きがしたいワケじゃない

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これに先立ち同社は、小学生以下の子どもがいる女性100人を対象に、時短料理に関する意識調査を実施。すると、86%が作り置きや合わせ調味料、冷凍食品を使うといった時短に取り組むが、既存商品は野菜が少ないと不満を抱いている人が多いこと、罪悪感やうしろめたさを「感じる」「少し感じる」と答えた人が合わせて71.8%もいることなどがわかった。

また、「献立を考えたくない人のニーズが、思ったよりすごく多い」(オイシックスの菅氏)ことも判明した。実は献立を考えて必要な食材をそろえることは、家庭料理において最も難しいプロセスで、初心者に限らずベテラン主婦も、日々の献立には悩む。1年365日、何十年も、かぎられた予算の中で食材を選び、家族の好みや体調、季節の変化に合わせて飽きさせない料理を並べ続けるのは、本当に大変な仕事だ。

「料理キット」に頼らなくなるかも?

次に面倒なのが下ごしらえ。青菜の根っこに残った土を洗い流したり、ニンジンを下ゆでしたり、野菜を切ったり……。それだけで20~30分かかることもあるので、多忙な人や経験の浅い人にはハードルが高い。

こうしたなか、料理キットは、「手作りの食卓を整えたいが、多忙さや技術不足のため実践が難しい」「日々の献立を考えるのが大変」と感じていた層のニーズをすくい取ったわけである。

実際、料理キットを使ってみると、中華スープに韓国のりを入れると簡単に韓国風になるなど、新たな発想にめぐりあうことができた。下処理済みの食材があると、アシスタントがついた気分でラクだ。

一方で、後日ふだんの食生活に戻ると、自分の味に安心感を覚えたのも事実で、自分で料理する大切さを教えてもらった気分になった。料理キットは必ずしも作らない人を増やすわけではない。余裕がないときの助っ人として役立ち、料理キットを使ってでも台所に立ち続けた人がやがて頼らなくなる将来を含んでいる。また、面倒な部分を省略できる料理キットの登場が、夫や子どもなど家族の参加を促したという結果は、将来的に家庭料理の担い手を増やす可能性をも秘めている。

オイシックスとらでぃっしゅぼーやは商品ラインナップを拡充し、パルシステムは今秋、キット製造用に自前の工場を稼働させる予定だという。主婦の負担感に応えた新しい市場は、今後、さらに拡大していくのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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