人口7割が「定職ナシ」でも不幸とは限らない 一方、「勤勉に働く日本人」は幸福なのか

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――職を転々とすることへの罪悪感もない?

ないと思います。1度ある仕事を始めたら、ひたすらそれを突き詰めていくというのではなくて、ライフスタイルや自分たちの状況において柔軟に変えていく。

私がタンザニアで調査をしているときに助手をしてくれていたブクワ(2017年現在で40歳・男性)の生き方が典型的です。彼は2007年、従兄弟からプレゼントされた資金で、あこがれの運転手になるための運転免許を取りました。しかし、その後ブクワは免許証をたんすの肥やしにして、私の調査の謝礼金などで中古パソコンを購入し、「ウェブサイト上で画像や音楽をダウンロードするサービスをやりたい」とパソコンを学びはじめました。

しかし、そのうち中古パソコンは壊れてしまい、そのままになってしまいました。そのときの彼は、妻のハディジャが厚底サンダルを売って設けた資金を運用して、日雇い労働の傍らに、革のサンダルにビーズの刺しゅうをする仕事を開始。商店街で最新ファッションのサンダルを見て、「これなら自分にもできる」と思ったらしいのです。

しかし、その後友人の紹介で3カ月の契約労働のために単身赴任することになり、刺しゅうの仕事は友人に譲渡してしまいます。以降も、偶然再会した旧友の紹介で倉庫に荷物を運ぶ軽トラックの運転手の仕事に就いたり、日雇い労働に戻ったりと、様々な職を転々とし続けます。最近ではまたパソコンを入手したらしく、やっぱりなにかやりたい、と懲りずに言っていました(笑)。

行き当たりばったり? 究極のジェネラリスト?

――見事な転身ぶりというか、行き当たりばったりというか……。

特定の仕事のプロになるのではなく、なんでもこなせるジェネラリストになる生き方が、インフォーマルセクターに従事する人々の特徴です。

もちろん、事業がうまくいったら、天職として長く続けるのでしょうが、つねによりいい仕事はないか、と探しているのですね。

日本だと、1つの職をずっと続けるべきだ、という価値観がありますが、彼らの場合は、基本的な発想が「経営多様化戦略」。いくつか選択肢を持っておいて、1つの事業で失敗したら、違う事業に移るという、ある意味リスク分散的な生き方をしている。

いかなる事業も不安定なので、1つにかけてもそれだけで成功できるかという確証がない。だから、本人たちの希望によらず、つねに多様な選択肢を持っておく必要があるんです。

――不安定な事業環境の中で生き抜くための戦略だと。

とはいえ、当の彼らに「どうにか生き残っていかなくては……」といった危機感はあまりなくて、彼らは言語や文化も全然異なるところにふらーっとやってきて、商売をして、いつの間にか仲間もできて、チャレンジしては失敗して、を繰り返している。

身構えたところはなくて、ギャンブルなれしているというか。失敗したときの対応もなれたもの。そこでもし何か当たれば、とてもおカネ持ちになることができるぞ、という希望がある。

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