前回、法人税率は法人の行動に影響を与えないと述べた。これは理論上の問題だが、法人負担の現状についての事実認識にも、大きな誤りが見られる。それは、「日本の法人課税の負担が、諸外国に比べて重い」というものだ。
こう言われる根拠として持ち出されるのが、「法人の実効税率」と呼ばれるものだ。これは、法人税等(日本の場合は、国税としての法人税と、地方税である住民税及び事業税の合計)の法人所得に対する比率である(地方税負担の一部が国税で損金算入されることを調整してある)。
2011年当時、「日本の実効税率は40.69%(国税27.89%、地方税12.80%)であり、アジア諸国(中国25%、韓国24.2%)はもとより、ヨーロッパ諸国(フランス33.33%、ドイツ29.41%、イギリス28%)より高い」と言われた。そして、こうした重い負担は、日本企業が負う「6重苦」の一つであり、国際競争力低下の大きな原因であるとされた。
こうした議論があったため、法人税率の引き下げが行われた(12年4月1日以後に開始する事業年度について、法人税率を30%から25.5%へ4.5%引き下げ。中小法人に対する軽減税率を18%から15%へ3%引き下げ)。
その結果、日本の実効税率はかなり低下した。財務省の資料によると、13年1月における日本の実効税率は、事業所が東京都にある場合、35.64%だ(国税が23.71%、地方税が11.93%)。これは、アジアやドイツ、イギリスなどと比べれば高いものの、アメリカ(40.75%)よりはかなり低く、フランスと同じくらいである。
実効税率が40%を超えるアメリカにおいて、企業の業績が順調にのびていることを考えれば、法人税負担の高さが企業活動の障害になっていないことは明らかだ。
しかも、ここで用いられている「実効税率」という指標は、国際比較を行うには不正確なものだ。その理由はつぎのとおりだ。
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