AKBの自爆と、ももクロの戦略マーケティング グローバルエリートがももくろファンに転向?

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“ももクロ”とは何か

ももクロと言われても、何のことですか、というのが「東洋経済オンライン」の読者の皆様の率直な感想ではなかろうか。そこで私が深夜のネット調査とYoutube鑑賞の後思った所感を要約させていただこう。

彼女たちは2008年に10代半ばの少女で結成され、グループ名には“幸運のクローバーのように人を元気に幸せにしたい”という想いが込められているという。激しいダンスとひたむきに頑張る姿勢、および現役の高校生主体ということで平日は学校に通うので“週末アイドル”をコンセプトに活動してきた。所属はモデルが多く所属するスターダストプロモーションだが、アイドルマネジメントのノウハウがあまりないとされているわりにももクロは大成功を収めたのはなぜなのか、というマーケティング戦略の観点から興味をもった。

彼女たちは下積み時代はヤマダ電機の各店舗でライブを行い地道にトレーニングしてきたわけだが、AKBの爆発的人気に押されて長らく影が薄かった。ちなみに“長い下積み時代”というのが昨今、アイドル業界でももてはやされているが、これは不況が続いて苦しい生活を余儀なくされている人が多くなってきたから、「うちらもこんなに苦労しました」というストーリーがマーケットから共感を得る上で必要になってきているのだろう。

ももクロの長い下積み生活の努力が実り、大ヒット曲“怪盗少女”に代表される激しいダンスに象徴される“ひたむきに頑張る姿勢”が徐々に評価され、昨年末には念願の紅白歌合戦出場に成功。その後国民的認知度が急上昇し、今ではペプシやロッテなどの消費財市場でCMに起用されるようになった。これは日清やお菓子メーカー、携帯電話など消費者市場をターゲットに多く起用されるAKBとも全面的にぶつかっており、今ではAKBの牙城にチャレンジできる唯一のアイドルグループと評価されている。

なぜAKBの市場を獲得できたか

ももクロ躍進の最大の要因は、AKBがまずメジャー化して、国民的な認知度や売り上げでは勝っているが“挑戦者”というコンセプトからは離れてしまい、そのAKBが作ってくれた大きな市場と空いた空間に入り込めたことが挙げられる。また二次元のセーラームーンやフィギュアオタクの世界を思わせるカラフルでセクシーで戦闘的な服装も同様に、二次元美少女アニメが拡大させた市場を獲得し、またユニークな差別化戦略で徐々に独自の“ももクロ市場”を形成していった。

ももクロの差別化要因に関してだが、まずクオリティの高い、楽曲の多様さや激しいダンスが、彼女たちの強みだ。作曲や作詞はラップやロック、ヘビメタから落ち着いた女の子らしい曲まで、結構業界の第一人者が担当している。メンバーがAKBと異なり5人ぐらいしかいないので、各自が幅広い曲をこなさないと、多くのキャラを入れ代わり立ち代わりさせることである程度鮮度を保てるAKBに比べて、一人ひとりにかかる負担は大きい。

ちなみにあの極めて激しいアクロバティックな動きもAKBのように何十人もいたらできる芸当ではなく、また長期間のトレーニングが必要とされる複雑なふりつけなため、他のグループが容易に真似できない参入障壁が築かれている。

走り高跳びオリンピック選手もビックリなエビ反りジャンプ等の激しいダンスと、長年の下積みと作詞の内容、及び各メンバーのキャラクターは“一生懸命ひたむきに頑張る”というコンセプトを相互補完的に強化しており、オタクを超えて幅広い支持の獲得に成功。結果として企業広告においても“挑戦者”をしばしばコンセプトとして打ち出すペプシなどに起用されてきた。

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