AKBの自爆と、ももクロの戦略マーケティング グローバルエリートがももくろファンに転向?

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AKBとの差別化:コアのオタク層に突き刺さる

ももクロは、グラビアなどの肌露出を禁止にすることでオタクの純潔神話にプロダクトプロポジションを寄せている。グラビアというドル箱商品の一つを自ら絶って商売に打って出るのだから、何を捨てて何を得るかという勇気ある判断があったワケだが、結果的にグラビアという簡単なキャッシュを捨ててハードコアな純潔願望の顧客と長期的な関係を築くことに成功したのはマーケティング上、ブランド強化に寄与する英断であった。

加えてアクロバティックな素早い動きは何十人もいるAKBでは真似ができないし、基本的にオタクが激しく一緒にオタダンスで盛り上がれる曲を探しているのにフィットしている。またどれだけ動きが激しくても口パクにたよらず地声で頑張る“一生懸命にひたむき”なポジショニングと、“支えてくれているオタクへの感謝を忘れない”(CDを何百枚も同じファンに買わせる非倫理的なAKB商法はとらない)という誠実な姿勢が、マーケットに突き刺さっている。

なおあの美少女戦士を思わせる服装も、二次元と三次元の間を生きるオタクマーケットを大いに刺激していることだろう。セーラームーンチックな二次元と三次元の境を思わせるコスチュームからして、よりコアなオタク層に切り込むのを狙っているのが分かる。

AKBの自爆

前回のAKBコラムでは書いていないが、ここにきてももクロはAKBの戦略ミスに助けられることになった。AKB側としてはそろそろ総選挙に客が飽きてきたので、話題性の多い異色キャラである指原さんを売り出しセンターに付け、そして次の選挙でアイドルの王道系のキャラクター(たとえばまゆゆ)にセンターを渡し、といった段取りだったのかもしれないが、AKBの致命的なミスは、“自分の応援のおかげで、ひたむきに挑戦する普通の女の子を成長させたい”コアなロイヤルカスタマー(言い換えればハードコアなオタク)を失いつつあることだ。

もはやAKBは、ハードコアオタクが押した渡辺麻友さんや、グローバルエリートが押した松井玲奈さんではなく、テレビのお茶の間でなんか面白いな、という理由で指原さんを推す“薄い顧客層”にAKBのセンターを決められるようになってしまい、長年のロイヤルカスタマーと“ひたむきに頑張る挑戦者”の戦略的ポジションを失いつつある。

またコアな顧客層にとって重要なのは彼らコアなオタク層が互いに心地よく同質的なオタクコミニュティだったが、新規の“薄いファン”がAKBの命運を左右するようになってしまい、ロイヤルカスタマーの居心地の良さとコミュニティ性および自尊心が傷つき、AKBの失望売りにつながっている。

AKBは最重要視すべきロイヤルカスタマーの声から離れることのリスクを、過小評価している。これは企業が成長するにつれコアな市場と商品コンセプトから離れ、結果的に没落していくことを連想させる。

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