"大学"と"宗教"が機能しない、日本の不幸 藤原和博(その4)

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過去10年、日本の仕事をめぐる状況は様変わりした。
『10年後に食える仕事 食えない仕事』。仕事の未来をマトリックスで4分類している。
インド、中国では毎年数百万人単位でハングリーな大卒者が誕生。また、ネット・通信環境が 大きく改善したことで、定型業務やIT開発を新興国へアウトソーシングできるようになった。仕事の枠を日本人同士で争っていればよい、という時代は終わっ た。さらに、人口減少に伴う国内マーケットの縮小も追い打ちをかけている。
これから日本の仕事はどう変わるのか? 10年後にも食えるのはどんな仕事なのか。当連載では、ベストセラー10年後に食える仕事 食えない仕事の著者であるジャーナリストの渡邉正裕氏が、"仕事のプロ"たちとともに、仕事の未来像を探っていく。

(司会・構成:佐々木紀彦)

【対談(その3)はこちら

 ——前回の対談では、「20年後には、日本人の半分は公務員になる」という予測から始まり、最後は、学生に対するキャリア教育の話になりました。今回は、社会人のキャリア戦略に話を展開していきたいと思います。

渡邉:藤原さんは著書の中で、社会人に対して、「二流の一番を目指せ。ニッチで一番を目指せ。まずは一つのことに1万時間、腰を落ち着けて取り組み、20代のうちに一つ武器を持て」と提言しています。

これからは「修正主義」の時代になるとしても、あっちこっち、いろいろな分野に手を出してフラフラしていてはまずいということですよね?

藤原:そう。前回言ったように、これからは掛け算の時代になる。つまり、情報編集力だね。掛け算の時代というのは、コアコンピタンスが何なのかを絶対に問われるわけ。ただ、「営業が得意です」と言っているだけではダメ。

まずは一つの専門を1日3時間徹底的に鍛える。それを365日やれば1000時間なので、10年間で1万時間に達する。1日6時間やれば、5年間でできますよね。だから5年か10年で1万時間というのを目安にしたらいい。

1万時間でどういうマスターレベルになるかというと、たとえば、日本語を普通に話し、自由に読んだり書いたりするレベルに持っていくのに、だいたい私たちは1万時間かけている。簡単に言うと、義務教育の9年間というのは、部活も全部含めておよそ1万時間。日本にかぎらず、ほとんどの諸外国が、1万時間かけて国民としての基礎を学ばせているんですよ。

私が今日から1万時間かければ、今はまったくできないロシア語でさえもマスターできてしまうわけ。それぐらいの力が人間の脳にはある。

だからまず、20〜30代にかけて、何をマスターレベルにまで持っていくかを考えないといけない。私の場合は、今振り返ると、リクルート時代に鍛えた「営業」と「プレゼン」という技術だったと思うんですよ。他の人の場合は、経理かもしれないし、財務かもしれないし、大道芸かもしれないし、それは何でもいい。

私の価値が高まった理由

渡邉:そこで何を選ぶかがすごく重要ですね。

藤原:今20〜30代の人は、今の延長、今あることからやっていかざるを得ないと思うんですよ。転職しながら何かの技術に磨きをかけ続けてもいいけれど、できたらユニークな領域のほうがいい。できるだけレアなものね。そうでないと、付加価値が高くならないので、給料は絶対に減っていってしまう。

たとえば、「営業×●●」という掛け算をすれば、全く違う価値を生むことができる。私の場合だと、47歳から5年間、和田中の校長をやったことが非常に大きいわけです。つまり、会社という世界で鍛えた「営業」と「プレゼン」の技術が、ノンプロフィットの世界でも通用することを証明してしまったわけじゃないですか。わかりやすく言えば、169人だった生徒数が450人まで増え、学力も杉並区内で23校中21位だったのが、トップになってしまったという。

こうした実績があるからこそ、私の価値が高まっているわけで、もしリクルートのフェローとして営業をやり続けていたら、たぶん年収はどんどん落ちていったと思うんですね。

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