日銀には「期待も失望もしない」ことが賢明だ 今回何もしなかったのは誤った判断ではない

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4月28日、金融緩和を見送った日銀の黒田総裁(写真:ロイター/アフロ)

4月22日(金)に、一部通信社の報道で、日銀が銀行向け貸し付けにマイナス金利を導入するとの観測が流れ、円安が進んだ。この円安は、そうしたマイナス金利が直接に円を安くする効果がある、というより、「こうした策が打ち出されるという観測が浮上しているのであれば、それ以外にも日銀がきっとすごいことをするに違いない」という期待が膨らんだためだろう。

実際の金融政策決定会合では、何らの追加緩和も行なわれなかったため、為替相場は大きく円高に振れ、日経平均株価も急落した。ただ、前述のような観測報道がなかったとしても、あるいは、金融政策決定会合で何か追加緩和策が打ち出されたとしても、株価や為替相場の動きはほぼ同様だっただろう。というのは、以前から、特に海外投機筋の間で、いまだに日銀に対する過度の期待が強かったからだ。

22日の観測報道前は、特に海外勢から筆者への問い合わせが多かった。在欧ヘッジファンドが来日して会談したし、ニューヨークから(普段は時差を考慮してメールによるやり取りなのだが)どうしても急いで電話で話がしたい、と言われ、真夜中に金融政策についての質問を受けた。

「予想もつかない策を予想してくれ」

この2社以外にも問い合わせがあったが、いずれも「きっとクロダのことだから、われわれが予想もつかないような、ものすごい緩和策を打ち出すに違いないと思うが、そうした予想もつかない策とは何か、予想してくれ」と言われ、「予想もつかないものは予想がつかない、そんなことを予想するのはよそう(英語では “cast away forecast”)、そもそもそうした金融政策に対する期待は持たないほうがよい、どうせ大したことはもう日銀はできない」と答えるという、まるで漫才のようなやりとりだった。

こうしてありもしないバズーカ砲期待を冷やしてあげたので、筆者と話したヘッジファンドなどは、株安・円高への反動を警戒することができ、感謝されていると思うが(実際、決定会合の結果が来た直後に、米国からお礼のメールをいただいた)、多くの投機筋は、勝手に期待したあと勝手に失望して、国内株式市場と為替市場で投げ売りを余儀なくされたのだろう。

海外短期筋中心のから騒ぎを横に置いても、もう日銀にできることはほとんどない。まったくないわけではなく、今まで行った資産の買い入れなどを、あと少しだけ増やすことは可能だろう。ただ、それだけだ。これは別に日銀が悪いわけではなく、そもそも金融政策だけでできることには最初から限界があったのに、一部の市場参加者や専門家、マスコミなどが、「カネ余りが来る、バブルが来る」と、狂喜乱舞したことのツケが回ってきただけだと言える。

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