しかし、日本の産業構造は、この点できわめて不利な形になっている。情報処理推進機構(IPA)の『DX白書2023』によると、日本のIT人材の約73.6%は、SIerやソフトウェア開発会社といったIT企業の側に偏在している。本来AIを使ってビジネスモデルを変えなければならない事業会社の内部にいるIT人材は、3割にも満たない。米国では、IT人材の約65%が非ITの事業会社の内部にいる。小売なら小売、金融なら金融、製造なら製造の現場のなかに、エンジニアやデータサイエンティストが入り込み、日々の業務と顧客の動きを肌感覚で理解しながらシステムを改善している。
AIは「一度作って終わり」の完成品ではない
ウォルマートやモルガン・スタンレーのような企業がAIを素早く実装できるのは、単に資金力があるからではない。現場の課題と技術の実装が、同じ組織の中で直結しているからである。必要だと思えば、その日のうちに議論し、翌日には試し、翌週には顧客に新機能を出せる。この「距離の短さ」こそが、本当の競争力になっている。
それに対して日本企業では、現場にITが分かる人がいないため、新しいAIの仕組みを入れようとするたびに、外部ベンダーへ要件定義書を書いて発注することになる。社内で議論し、文書化し、SIerに渡し、見積もりを取り、数カ月かけて開発し、ようやく納品される。その頃には、市場環境も、顧客ニーズも、競合の動きも変わっている。
データとAIのモデルは、毎日流れ込んでくるデータを学習しながら、絶えず修正し、磨き、賢くし続ける「生き物」である。その生き物を、外部委託の長いサイクルのなかで飼いならそうとしても、機動力で勝てるはずがない。
もっとも、たとえ人材不足を何とか乗り越え、全社的な導入に踏み切ったとしても、それだけで問題が解決するわけではない。多くの企業は、次の段階で別の壁にぶつかる。「個人の作業は確かに速くなったのに、なぜか組織全体の売上や利益はほとんど増えない」という逆説である。


※ログイン後、コメント入力が可能です。