効果がないのに緊急事態宣言を出せば、生じるのは単に「自分の身を犠牲にしていく」事態だけだ。だけどそうした国民が多かったことは、ネットのアンケートだけでなく、起こった事実が証明している。
「アルコール依存」で酒を飲むように、専門家を消費する
日本人はコロナでもウクライナでも、これまでの路線がもはや無効だと知りながら、ないしは知っているがゆえにこそ、従来の方針に固執した。その奇妙さを理解するには、フロイトに質問するとまでは行かずとも、メンタルヘルスからのアプローチが有効になる。「まちがいだとわかっているのに、前より激しく続けてしまう」─これは典型的な、依存症の症状だからだ。
酔いがすぐに醒めると知ってはいても、ぼくたちはアルコールを飲む。そのくらいなら問題ないが、自分の不幸が解決しないことで飲酒に走り、飲んでも原因は消えないと知りながらやめずにいると、酒量が増える。切れ目なく酔っていないと気持ちが落ち着かない、「連続飲酒」の状態になってしまうと、完全なアルコール依存症である。
同じことが、飲み物でなく言論で起きたとしたら、どうだろう。
パンデミックも戦争も、人を不安にさせる点では同じだ。そうしたときにTVで、すべてを見通しているかのような「専門家」の解説を聞くと、安心する。もっともそれは一瞬だけで、遠からずまちがいがわかり不安が戻ってくるが、しかし酒に酔い続けないと生きていけない人のように、とにかく「専門家」に頼らないと、現実を乗り切れない視聴者が出てくる。
いわば、専門家依存症だ。社会的な成功者でも酒や薬に依存する例があるように、そうなるのは知識の乏しい人に限らない。むしろ、著名な知識人の症例が多い。
日本人が「まちがえた」と言えない理由は、この依存の構造の先にある。次の危機で同じ轍を踏まないためにこそ、彼らが当時メディアで行った発言を追跡し、失敗の本質を明らかにしてゆこう。
(注)
1 A・アインシュタイン/S・フロイト『ひとはなぜ戦争をするのか』浅見昇吾訳、講談社学術文庫、2016年、16頁。
2 同書の意義と内容は、岩間陽子・開沼博・佐々木俊尚・東畑開人・與那覇潤『常夜の読書会』潮出版社、2026年、第5章を参照。
3 磯野真穂・與那覇潤「コロナ禍に人文学は役に立つのか?」第2回、新潮社 考える人、2021年8月26日。


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