その後、26年には第2子を出産したNさん。胞状奇胎の経過観察は今も続いているものの、現在は夫婦で心から子育てを楽しんでいる。
「胞状奇胎は治療法が確立されている一方で、発症原因や予防法についてはいまだ不明点が多い病気です。それに、治療をすればまた絶対に授かれる、なんて確約もできません。治療期間も治療後の経過も、人によって全然違う。だからこそ、今同じような症状で苦しんでいる人には、むやみに大丈夫だよ、なんて言えないなと思います。
一刻も早く医学が進歩して、この病気の原因が究明されて、妊娠をきっかけに深い悲しみを経験する人がいなくなってほしいと願います」
同じように苦しむ人を安易に励ますことはできない。そう語る一方で、Nさんはこんなメッセージも残した。
「それでも、絶望ばかりする必要はないんだよって伝えたいです。この経験があったから、私たち夫婦の絆は確実に強まったし、自分の体を大切にする生活を意識できるようになりました。そして、自分のような一例もあるんだってことを、頭の隅に入れておいてもらえたら嬉しい」
Nさんが体験した異常妊娠は、Nさんの人生計画を狂わせ、30代の彼女の心身に大きなダメージを与えた。そして再び妊娠した時でさえ、喜びと不安は常に隣り合わせだった。それでも今、Nさんの横には屈託のない笑顔で母親を見つめる小さな命が、確かに存在する。
同じ病気を乗り越えたからといって、その後の人生がすべて同じ結末になるわけではない。けれど、Nさんが残した「自分のような一例もある」という言葉は、今なお病気と向き合っている誰かにとって、ほんの少し先を照らすものになるのかもしれない。
監修医・舛森悠医師のコメント
胞状奇胎は、胎盤のもとになる「絨毛」という組織が異常に増える病気です。多くは子宮内の組織を取り除く手術で治りますが、全胞状奇胎の10〜20%程度では、残った組織が子宮の筋肉の奥に入り込んだり、血流に乗って肺などに広がったりして増え続けることがあります。これが「侵入奇胎」で、胞状奇胎に続いて起こる絨毛性腫瘍の一つです。
こうした組織は手術で取り切るのが難しい一方、抗がん剤がとてもよく効く性質をもっています。そのため、hCGというホルモンを目印に抗がん剤で治療し、多くの方が子宮を残したまま治ります。治療後に妊娠・出産される方も少なくありません。術後にhCGの検査を続けるのは、この変化を早く見つけるためです。


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