病院に隣接する高齢者住宅の罠
久留米リハビリテーション病院の院長を務める私は、日々の診療のなかで、この10年ほどの間で強く感じていることがあります。それは、「在宅」という言葉の意味が、いつの間にか変わってしまったということです。
かつて昭和30年代には、亡くなる方の約8割が自宅で最期を迎えていました。それが今では逆転し、病院で亡くなる方が8割近くを占めています。政府はこの流れを自宅に戻したいと考え、医療再編を進めるなかで、病院のベッド数を減らし、その代わりに患者さんをできるだけ自宅(在宅)に戻すという方針を掲げてきました。
そのために診療報酬の制度に「在宅復帰率」という指標が組み込まれ、一定以上の割合の患者さんを自宅に帰すと診療報酬が高くなり、病院の収益が上がる仕組みが作られました。結果として、医療機関にとっては「どこへ退院させるか」が経営上の重要な要素になってきました。
すると、いつの間にか、患者さんが退院して在宅に戻るだけでなく、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、ケアハウスなどの施設に移ることも、「在宅復帰」と見なされるようになりました。
そこで一部の医療機関では、病院の敷地内またはすぐ近くに高齢者介護施設を開設するようになりました。自分の病院から自分の介護施設に移すだけで、自宅退院と見なされ、在宅復帰率の数字は上がります。
しかも、具合が悪くなればまた自分の病院に入院させ、落ち着けばまた施設に戻す。私は、こうした「行ったり来たり」の構造が、病院側にとって都合のよい収益構造になっている現状に危険性を感じています。


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