そこで私は、患者さんに「家がある人は、施設に入っても家は必ず残しておきなさい」とお伝えしています。経済的に可能であれば、数カ月入所してみて、ここで大丈夫だと思ってから初めて、家を手放すかどうかを判断すればよいのです。先に家を手放してしまうと、もう後戻りができなくなってしまいます。
高齢者介護における、もう一つの大きな構造的問題
各地域における高齢者介護には、もう一つ大きな構造的問題があります。それが、地域包括支援センターと市町村行政との連携不全です。
地域包括支援センターは、地域包括ケアシステムを支える中核機関であり、設置責任は市町村にあります。運営を民間に委託しても、市町村の責任がなくなるわけではありません。
市町村には、地域の理念や目標を共有する「規範的統合」と、医療・介護などの関係者をつなぎ調整する「ガバナンス」の役割があります。しかし、委託を理由に行政がその役割まで放棄し、現場任せになっている自治体も少なくありません。地域包括ケアを機能させるには、市町村が主体的に関与し、地域全体を調整・支援することが不可欠です。
もちろん、こうしたなかでも頑張っている自治体はあります。人口1万人、2万人といった小さな自治体では、委託できる民間事業者が少ないため、自治体自らが運営に深く関わらざるを得ず、結果としてかえってうまく機能しているケースが少なくありません。
皮肉なことに、規模が小さい自治体ほど比較的うまくいっているのです。一方で、規模の大きな自治体では、関係者同士の利害関係や責任の所在があいまいになりやすく、統治がうまくいかず問題が多くなっているというのが現状です。
そもそも国が推進する「地域包括ケアシステム」とは、高齢者が住み慣れた地域で、自分らしく暮らし続けられるようにするための仕組みです。ところが、「在宅」とみなされる施設がどんどん増え、そこに高齢者が囲い込まれていけば、地域からお年寄りの姿が消えていきます。
高齢者が地域の中で暮らし、買い物をし、近所の人と会話をする。そうした日常そのものが失われれば、地域包括ケアシステムの基盤である“地域”も弱くなってしまいます。


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