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ムンクの《叫び》はなぜ歪み、《自由の女神》はなぜ胸を出している?…「名画」に隠された意外すぎる"画家の計算"

10分で読める
エドヴァルト・ムンク 叫び
絵画を読み解くための基礎となるルールとは?(画像:『名画の秘密 読むだけで天才たちの思考が見抜けるようになってしまう本』より)
  • 井上 響 美術史作家、美術史ソムリエ
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1.ムンク《叫び》:うねる背景と友人の「軸線」が明かす精神世界

まず検証するのは、エドヴァルド・ムンクによる有名な作品《叫び》(1893年)です。

エドヴァルト・ムンク《叫び》1893年、オスロ国立美術館、オスロ(ノルウェー)(画像:『名画の秘密 読むだけで天才たちの思考が見抜けるようになってしまう本』より)

この作品について、ムンク自身は日記に次のような言葉を残しています。

「私は二人の友人と道を歩いていた。その時、太陽が沈んだ。
突然、空が血のように赤くなった。私はくたびれはて、立ち止まり、手すりにもたれた。青黒いフィヨルドと街のうえには血と炎が垂れ込めていた。
私の友人は歩き続け、私は不安に身震いし、立ち続けた。
大きな無限の叫び声が、自然を貫いて響くのを感じた。」
〔引用:『ムンクの世界:魂を叫ぶひと』(コロナ・ブックス) 田中正之(監修) 平凡社〕

つまりこの絵は、ムンク自身が「自然の叫び」=自分の中に湧き上がる畏怖と不安の感情に身震いしている瞬間を描いたものです。

この前提を踏まえたうえで、絵の造形に注目してみましょう。

主役の「S字の軸線」と奥の友人の「まっすぐな軸線」

絵の主役は、画面中央で体をS字にねじらせ、骸骨のような表情で両耳を押さえて立ちつくす人物(ムンク本人)です。

彼の体の「軸線」に注目すると、縦でも横でもなく、大きく波打つ「S字(曲線)」を描いていることがわかります。軸線にS字を用いることで、主役に「動き」や「心の揺らぎ」が付与されているのです。

(画像:『名画の秘密 読むだけで天才たちの思考が見抜けるようになってしまう本』より)

一方で、橋の手すり(視線を奥へ導く「ディレクション」の役割を果たしています)を辿った先にいる「二人の友人」の軸線を見てみてください。彼らの軸線は歪むことなく、まっすぐ力強く立っています。

自然の叫びは、現実には音として聞こえているわけではなく、ムンクだけに訪れた主観的な精神体験です。だからこそ、叫び(恐怖)を感じて心が大きく動揺しているムンクの体は「S字の曲線」で歪められ、自然の叫びに気づかず平静なまま歩み去る友人二人は「まっすぐな縦の軸線」で表現され、対比されているのです。

(画像:『名画の秘密 読むだけで天才たちの思考が見抜けるようになってしまう本』より)
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