「頼まれたことだけ伝える。聞かれたら答える。それ以上はしない。そのほうがお互い安全でしょう」と言われます。
最近、こうした声を企業研修の現場でも耳にするようになりました。いま話題になっている「後輩育成キャンセル」です。
若手は意外なほど、上司の「遠慮」に気づいている
株式会社ライトワークスが2026年に行った、20代の若手社員443人と30~50代の管理職443人を対象にした調査では、管理職の61.2%が、部下への指導を積極的に行わずやり過ごす「育成キャンセル」を、意識的あるいは結果的に経験していました。
また、「ハラスメントと受け取られるかもしれない」という懸念から、本来行うべき指導や注意を控えた経験がある管理職も6割を超えています。
この数字を見て、「最近の管理職は部下育成を放棄している」と責めるだけでは、問題の本質を見誤ります。むしろ私が感じるのは、管理職側の疲弊です。
ハラスメント防止はもちろん必要です。かつてのように、「指導だから」と怒鳴ったり、人前で執拗に叱責したり、人格を否定したりすることが許されないのは当然です。一方で、ハラスメントへの注意喚起が「あれをしてはいけない」「これを言ってはいけない」というNG集だけになってしまうと、現場には別の不安が生まれます。
「では、何なら言っていいのか」がわからなくなるのです。境界線がわからないなら、近づかない。指導して問題になるくらいなら、黙っている。何度言っても変わらないなら、自分でやったほうが早い。こうして「関わらないこと」が、管理職にとって最もリスクの少ない選択肢になっていきます。
しかし、ここに大きなすれ違いがあります。
同じ調査では、20代の78.2%が「ハラスメントに当たらない範囲での率直な指導やフィードバック」を求めています。さらに、若手の63.6%は「上司が気を遣って、踏み込んだ指導を避けている」と感じていました。若手は意外なほど、上司の「遠慮」に気づいているのです。特に興味深いのは、「提出した成果物や業務報告に対して、褒められるだけで具体的な改善点を指摘されないとき」に、指導を避けられていると感じる若手が53.2%いたことです。
「いいね」「大丈夫」「その調子で」――。
一見、優しい言葉です。しかし、それだけでは本人は「何がよかったのか」「どこを直せばさらによくなるのか」がわかりません。短期的には、注意されない職場は居心地がいいかもしれません。
しかし長期的に見れば、成長するための材料を渡されていないことになります。


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