私はここに、今の職場が抱える大きな課題があると思っています。
相手を傷つけない。不快にさせない。嫌われない。問題を起こさない。これらはもちろん大切なことです。
しかし、それを最優先するあまり、「必要なことまで言わない」状態になれば、コミュニケーションそのものが痩せていきます。そもそも指導とは、相手を攻撃することではありません。
「なんでこんなこともできないの?」「前にも言ったよね」「社会人としてどうなの?」
こうした人格や能力を責める言葉と、「この部分は、数字の根拠をもう一度確認しよう」「ここまでできている。次はこの点を改善するともっとよくなる」「今回うまくいかなかった原因を一緒に整理しよう」という業務上必要なフィードバックは、まったく別物です。必要なのは、指導をやめることではありません。攻撃をやめて、指導をすることです。
育成とは、上司から部下への一方通行ではない
人間関係には、多少の面倒がつきまといます。言ったことがすべて思ったとおりに伝わるわけではありませんし、ときには意見がぶつかることもあります。注意を受ければ、気まずく感じることもあるでしょう。だからといって、その可能性をすべて排除しようとすれば、残るのは「必要以上に関わらない」という関係です。
それははたして、働きやすい職場なのでしょうか。
上司は「ハラスメントと言われたくないから言わない」。
部下は「何も言われないから、自分がどう評価されているかわからない」。
表面上は波風が立っていなくても、双方に不安だけが残ります。これは決して健全な状態とは言えません。ハラスメントのない職場をつくることと、人間関係を希薄にすることは同じではありません。むしろこれから必要なのは、「何も言わない安心」ではなく、必要なことを安心して言い合える関係をつくることではないでしょうか。
管理職だけに「もっと勇気を持って指導してください」と求めても解決しません。企業側も、「何をしてはいけないか」だけでなく、「どう伝えれば適切な指導になるのか」を具体的に示す必要があります。そして若手側にも、わからないことを尋ねる、改善点を聞く、フィードバックを求める力が必要です。育成とは、上司から部下への一方通行ではありません。「教える人」と「教わる人」が互いに少しずつ関わろうとすることで、初めて成立するものなのです。
「面倒だから関わらない」「怖いから言わない」
そんな関係ばかりになった職場から、人は育つのでしょうか。ハラスメントをなくすことは、人と人との関わりをなくすことではありません。その違いを、今こそ職場全体で考える時期に来ているのではないでしょうか。


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