3つ目はEPS(電動パワーステアリング)や4WS(4輪操舵)、AVS(アダプティブバリアブルサスペンションシステム)を駆使して横Gを打ち消す制御、「リアコンフォートモード」の採用だ。
「プロの腕を疑うようで失礼ではないか」と躊躇する開発陣に、現場の運転手たちは「僕たちだって人間です。お客様を起こさずに済むなら、これほどありがたい武器はない」と即答。後席だけでなく、ステアリングを握るショーファーにも温かな心配りを忘れない。それこそが中村健也氏の時代から続く「人中心」の血脈だった。
試作車がお披露目された商品化決定会議。それを見た章男氏や役員たちから出た言葉は、「いいSUVができた」ではなかった。
「ああ、センチュリーができたな」
誰一人として、それをSUVとは呼ばなかった。姿形は変われど、そこに宿る気品と緊張感は、紛れもなくあのセンチュリーそのものだったからである。
ちなみに章男氏は、このクルマの開発ではステアリングを握る「マスタードライバー」にはなっていない。その代わりに自らを「マスターパッセンジャー」と位置づけ、終始後席に座り、ドアの開き方、降り立つ足の運び、車窓からの見え方に至るまで、後席からの視点でクルマを磨き抜いたそうだ。
1台1台仕様が異なる「時価・応談」のクルマづくり
愛知県の田原工場に設けられた専用ライン。そこには無人搬送車もベルトコンベアもない。厳選された42名の“匠”が、手作業で1台に5時間以上をかけ、パネルの歪みを指先で感じ取り、ミクロン単位でボディを研ぎ澄ます。
月産わずか30台。 2500万円という価格はあくまで「基本仕様」に過ぎず、顧客との対話によって仕様も価格も変わる「時価・応談」のものづくり。
世界中に均質で高品質なクルマをタイムリーに届ける「カイゼンと大量生産」で頂点を極めたトヨタが、その真逆にある「たった1人の顧客のために、時間と手間を惜しみなく注ぎ込む少量フルオーダーメイド」という、最も不慣れで泥臭い挑戦へ身を投じたのだ。


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