その後も、蒸溜器の不具合など、毎日何かしら想定外の出来事が起きた。しばらくすると、マイケルさんには朝のある習慣が定着したそうだ。それは、朝一番のラジオ体操、ではなく、雄叫び。
「『うぉぉぉぉぉー』。こうやって、先に怒っておくんだよ」
数々のトラブルに対応しながらも、無事2022年にオープン。2019年に開業を決めてから3年ほどが経っていた。
こうして生まれた蒸溜所が、今英国のスーパーに、年43万本分のジンを送っている。
「偶然」の裏にあったもの
現在はふたりで商品のコンセプトを考え、マイケルさんがレシピ作りと製造のほとんどを担い、明子さんが事務を担当している。
話を聞いている間、マイケルさんは「自分は何もできない」「周りの人が助けてくれた」と何度も話していた。そこには、周りの人が「助けたい」と思う理由があるのではないだろうか。
「昔、父が『正しいことをすれば、正しい反応が返ってくる』と教えてくれた。ここで何か問題が起こると、仲間や誰かが『手伝うよ』と言ってくれたのは、僕たちが無理やり自分たちの思う通りに進めようとしなかったからかな。ただ自然に、いい流れに乗っているだけ」
だが、ふたりの30年の歩みを辿ると「偶然」だけでは説明がつかない。マイケルさんの背後に並ぶ数十本の単体蒸溜サンプル、ボブさんが海外の蒸溜所とブルワリー創業で積み上げた設備や申請に関する知識と人脈。「年43万本」を可能にしたのは、ふたりがそれぞれ30年かけて溜め込んできた引き出しだった。流れに乗れたのは、乗る準備ができていたからだ。
マイケルさんは、顧客からのリクエストを受けて、新たに200リットルの蒸溜器も投入する予定だ。バーなどからの少量のOEMのリクエストにも対応できるようになるという。
ふたりの「もうちょっと、もうちょっと」は、まだ続いている。


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