大川内:どちらが正しいかではなく、問題への向き合い方が違うことを、互いに理解できる言葉にしたのですね。
窪田:おっしゃる通りです。そのたとえを両国のエンジニアに共有した後、2つのエンジニアリングチームはうまく協働するようになったと聞きました。文化人類学は、M&A後の組織統合にも有効なのだと感じました。
組織図では見えない「当たり前」を読む
窪田:文化人類学者が現場にいることは、どのような意味をもっているのでしょうか?
大川内:文化人類学者が現場に長くいるのは、信頼関係を築くためだけではありません。日々一緒に過ごし、仕事や生活の様子を見ることで、短時間のインタビューだけでは見えにくい、当事者自身も言葉にしていない前提や、仕事がうまく進まない理由が見えてくることがあります。組織図や意思決定のフローが整っていても、実際には組織が思うように動かないことがあります。その背景には、誰に相談するのか、どこまで自分で判断するのかといった、数字では捉えにくい人間関係や慣習があるからです。
窪田:組織の設計だけに目を向けても、根深いところにある摩擦は解けないということですね。
大川内:はい。文化の融合や相互理解が深まることには、数値化しにくくても大きな価値があります。ただ、日本では文化人類学者が何をする人なのか、まだ理解されにくい面があります。「人事の査定に使うのではないか」と警戒されることもありますね。
窪田:本来は敵ではなく、現場の人と一緒に最適な解を探すパートナーなのに、もっと日本中にその存在を知ってもらう必要がありますね。
大川内:そう思います。人の行動、生活、関係性を丁寧に見ていくことで、組織が自分たちだけでは見つけにくい問いを立てられるんです。文化人類学は、遠い世界を知るためだけでなく、企業や社会の日常を捉え直すためにも使える学問です。
窪田:テクノロジーが進み、組織も社会も複雑になるほど、こうした視点は重要になりそうです。
大川内:はい。何を変えるべきかを急いで決める前に、現場で何が起きているのかを見て、聞いて、共に過ごす。その過程そのものが、よりよい協働の出発点になるのだと思います。


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