人気アイドルグループ「timelesz(タイムレス)」のメンバー・猪俣周杜(以下、猪俣容疑者)が逮捕された。SNSではアイドルの逮捕というセンセーショナルな報道を受け、さまざまな意見が飛び交っている。
そんな本件で目立つのが、騒ぎに便乗したデマや、生成AIによる捏造と見られる写真だ。とくに後者は、正体不明の、フォロワー数も少ないアカウントからの投稿も見られており、収拾がつかない様相を見せている。
本稿では、事件の概要とSNSの反応とともに、生成AIの悪用について見ていく。
事件概要と、SNSでの反応
まずは事件の概要について見ていこう。
事件が起きたのは、2026年9月18日夜10時半ごろ。江東区辰巳のコンビニエンスストアの駐車場に止めた車の中で、知人女性の顔面を複数回殴打し、けがを負わせた疑いがある。女性は出血し、コンビニ店員に助けを求めたことで事件が発覚し、逮捕に至ったという。
警察からの取り調べに対し、猪俣容疑者は「口論の際、手が当たってしまった」「口論になってパニックになった」などと供述しているそうだ。なお、猪俣容疑者は9月20日に警視庁東京湾岸警察署から東京地検に送検されている。
現役アイドルの暴行容疑というセンセーショナルな話題に対し、SNSではさまざまな意見が噴出している。
「オーディションであんなに頑張っていたのに…」
「timeleszどうなるんだろう」
「菊池風磨さんが気の毒すぎる」
「フェイクニュースだったらよかったのに」
「グループの冠番組が終わるのでは?」
timeleszといえば、Netflixの『timelesz project -AUDITION-』で大きな話題を呼んだことで記憶に新しいグループだ。「timelesz project(通称タイプロ)」でSexy Zoneの新メンバーオーディションを行い、新メンバー5人を加えて2025年2月より新生スタートした。
猪俣容疑者はそんなtimeleszの新メンバーであり、応募総数1万8922件の中から選ばれた存在だ。非常に大規模なオーディションを勝ち抜き、芸能界でも存在感を見せつけている。アイドルとしての才能にあふれ、タイプロでは『努力がハンパないと思った候補生ランキング』第1位に選ばれたほどの努力を見せていたのだ。
それほどの努力のうえで活躍していたというのに、女性への暴行容疑での逮捕によって、キャリアは大きな岐路に立たされた。仮に不起訴になったとしても、ネガティブなイメージを覆すのはかなり難しいだろう。持てるポテンシャルを最大限に生かしてパフォーマンスを振りまくアイドルという存在に、「暴力」のイメージがついてしまったら推すに推せないはずだ。
しかも被害を受けたとされるのは知人女性だ。逮捕による活動への影響はすでに現れており、所属事務所は当面の謹慎と活動休止を発表。9月20日放送の「timeleszファミリア」も内容を変更して放送された。
SNSで飛び交う“生成AIを悪用?”のデマ
そんな本件をめぐっては、SNSでは生成AIを活用したとみられるデマ画像が多数飛び交っている。中には通報が多数寄せられたのか、アカウントが凍結されているものもある。
アイドルが女性への暴行容疑で逮捕されたというのは、非常にネガティブな感情につながるだろう。猪俣容疑者は容疑を否認しているものの、「ありえない」「最低」という感想を抱くこと自体は仕方がない。
だが、逮捕されたからといって、「ネットのおもちゃ認定」をしてデマをまき散らしていいわけではない。誹謗中傷も当然よくないのだが、デマをまき散らすのは拡散力という面では数段上の悪質さがある。
たとえば現在Xでは、殴られた側の交際相手を自称する人物が、猪俣容疑者とのLINEのやりとりを公開している……と紹介しているアカウントなどが見られる。もっとも、本人のXでしか表示されない「返信をポスト」が表示されるなど、自作自演が疑われている状況だ。もし自作自演だとしたら、非常に悪質な行為である。
もっとも、そういった行動をしている人は、デマを投稿することに罪悪感などないのだろう。おそらく、「逮捕された=見下していい=ネットのおもちゃとしてフリー素材にしよう」くらいの感覚なのだ。投稿の目的は、単なる悪ふざけからインプレッション稼ぎ、外部サイトへの誘導までさまざまだろう。だが共通しているのは、逮捕された人物を「ネットのおもちゃ」のように扱い、ねつ造を交えながらコンテンツ化していることだ。
「ネットのおもちゃ」認定した人への残酷性は問題だ
近年、ネットのおもちゃ認定した人への残酷性が強く見えるようになった。少しでも瑕疵がある人に対し、問題の言動をあげつらったり、ネットミームとして写真や動画を作ったりとやりたい放題だ。まるで肖像権や著作権が消滅したかのように、ありとあらゆる投稿で面白がる。外から見るとまったく面白くないのだが、SNSの中という狭い場所ではネットミームは「共通言語」として機能してしまうのだ。
有名人をやゆするコラージュ画像自体は、生成AI以前から存在していた。しかし現在起きているのは、その「製造コスト」の劇的な低下だ。画像編集の技術がなくても、本人の写真と簡単な指示さえ与えれば、もっともらしい画像を短時間で何枚も生成できる。しかも1枚の偽画像が拡散されれば、それを素材に別の画像や動画が作られる。デマがデマを生む速度そのものが、以前とは違う。
加えて、TikTokをはじめとしたショート動画サービスの台頭により、ネットミームの拡散力が増した。爆発的な増え方をするので、たとえその動画が権利侵害の上に作られたものであろうと、もはや止めようがない勢いで増えてしまう。結果、権利意識が薄く、個人をおもちゃ扱いするコンテンツを当然のように享受する層が厚くなってしまったのではないだろうか。
また、炎上は何がきっかけで起こるかわからず、そういう観点では、誰がいつおもちゃにされてもおかしくない。にもかかわらず、「自分とは切り離された世界の出来事」「言動に問題がある人はおもちゃにされて当然」といった意識でネットのおもちゃで遊ぶのは、あまりに残酷だと思えてしまう。かくいう筆者も、過去にXで炎上を体験したこともあり、おもちゃ側にされる恐怖を知っている。猪俣容疑者に対しては、もし行動が事実であったのなら擁護の余地はないものの、それでもネットのおもちゃにされるのは、同情を禁じ得ない。
本当の事件に混ざるウソほど見抜きにくい
今回のようなケースで厄介なのは、事件そのものは事実だということだ。
「猪俣容疑者が逮捕された」というニュースが事実だからこそ、その周辺に「交際相手とのLINEが流出した」「こんな写真が存在する」といったデマが混ざっても、見る側は「これも本当なのではないか」と受け入れやすい。すべてが架空のフェイクニュースよりも、「大部分は事実だが、一部だけねつ造されている情報」のほうが、むしろ見抜くのは難しい。生成AIは、その『もっともらしい一部のうそ』を極めて簡単に作れるようにしてしまった。
当然ながら、猪俣容疑者に関するデマや誹謗中傷を投稿する人は、いつでも訴訟のリスクがある。法律的にも倫理的にも許されることではないので、もしかけらでも良心があるなら今すぐやめた方がいいと伝えたい。
だが問題は、投稿者の倫理観だけに解決を期待できないことだ。良心が少しでもあるのなら、そもそもデマも誹謗中傷も投稿しないだろう。だからこそ、SNSを利用する多くの人がAIで生成された画像やデマが含まれている可能性を認識し、他人の投稿を安易に真に受けないのが大切になる。
簡単にデマをねつ造できる時代だからこそ、より情報を取捨選択する重要性が増していると実感させられる……そんなふうに改めて感じさせる事件であった。


※ログイン後、コメント入力が可能です。