この企業は、工場などで使用される制御装置を開発していました。製造現場でロボットや製造ラインを制御するには、一般的なITプログラム用の言語とはまったく異なる専門的なプログラム言語を使って命令を記述する必要があります。ユーザーである製造現場のエンジニアにとって、この言語の習得は大きな負担となっていました。
さらに、古い工場では何年、何十年にもわたって改修が繰り返されたプログラムが動いているケースも珍しくありません。こうした古いコードは可読性が低いうえに仕様書が残っていないことも多く、熟練の技術者であっても読み書きが難しい場合があります。コードの保守性と可読性の低さ、書き換えの難しさ、熟練者の不足と属人化。この三重苦が絡み合って存在していました。
繰り返しになりますが、このボトルネックは制御装置を作るこの企業の側にではなく、それを使うユーザーの側にありました。
「乗り換えられない」という参入障壁が消える
そこで開発したのが、大規模言語モデルを活用した制御装置向けの「設計コード生成AI」です。製造業版のコーディングアシスタントとも言える存在で、核心的な機能は2つあります。
エンジニアが自然文で指示すると、ハードウェア情報や言語コードの仕様書などをAIが自動で検索・抽出する機能。そして、抽出された情報をもとに設計コードのサンプルを自動生成する機能です。これにより、熟練者でなくても高品質なコードを書けるようになり、同時に工数の大幅な削減が実現します。
経験の浅いエンジニアでも熟練者に近い品質でコーディングができ、資料を探す時間も大幅に減る。顧客体験の改善として、それ自体が大きな価値です。しかしこの取り組みの本質は、そこにとどまりません。
第1に、既存顧客のリプレイス障壁が取り除かれます。この企業の旧世代の制御装置を使い続けている工場にとっては、古いプログラムが書き換えられないことが、新しい制御装置への更新を阻む最大の障壁でした。AIがその障壁を下げることで、既存顧客の新製品への移行が促進されます。


※ログイン後、コメント入力が可能です。