第2に、競合メーカーのロックインを崩せます。制御装置の言語はメーカーごとに仕様が微妙に異なり、競合の製品で書かれたプログラムは簡単には変換できませんでした。これが業界のロックイン構造であり、顧客が一度使い始めたメーカーの製品を使い続ける大きな理由の1つでした。このAIが競合のプログラムを自社のプログラムに変換できるようになれば、そのロックインを崩し、競合の顧客を自社に引き込む道が開けます。
これはすなわち、競争の軸が変わるということです。従来この業界では、ロックインによって顧客を囲い込むことが競争力の1つになっていました。しかしこのAIが普及すれば、ロックインという競争軸自体が効力を失い、製品やサービスの実力で選ばれる時代が到来します。
自社の工数を減らすためではなく、顧客が抱えていた不自由を解くためにAIを使った結果、業界の競争ルールそのものが書き換わろうとしている。この順序が重要です。
どこから問いを立てるか
冒頭で挙げた3つの問いに照らせば、この企業が立てたのは3つめの問いでした。自社の業務のボトルネックを探すのではなく、顧客の現場で誰が何に困っているのかを見に行った。だからこそ、競争構造にまで手が届いています。
この企業は以前から、ロボット制御、異常検知、画像検査といった複数の領域でAI活用を積極的に進めてきました。そうした蓄積がある中で、生成AIが登場したタイミングで本事例のような着眼点につながっています。AIに与えている位置づけは、個別のエンジニアリング課題を解決する道具ではありません。製造現場、あるいは産業全体の知的基盤を変えるインフラです。
背景にあったのは、欧州をはじめとする海外の競合企業がAI活用で先行しているという危機感でした。海外のプレイヤーはすごいスピードで進んでいる、そこに対応してしっかり進めていかなければならない。担当者のそうした切迫感が、動きを加速させました。
自社のどこが詰まっているかを問うている限り、答えは自社の中にしか現れません。競争構造にまで手が届く問いは、視野をどこまで広げたかで決まります。


※ログイン後、コメント入力が可能です。