「滞在先ホテルの総支配人にも力を貸していただき、夜9時30分までに奈良ホテルの会場を押さえることができました。こういうときは、一人で何とかしようとするのではなく、周囲の方のお力も借りながら、その場でできることを見極めながら、一つずつ動いていくことが重要です」
富裕層が求めるのは「演出」ではない。地域の「当たり前」が武器に
その後独立し、コロナ禍を迎えた増田さんは、地方での富裕層向け体験づくりと後進ガイドの育成に注力した。「富裕層が地方へ来るようになってから準備しては遅い」と、ライバルにもかかわらず、ガイド仲間に惜しみなくノウハウを共有した。
目指すのは、訪れた人に感謝が、迎えた人に誇りが生まれ、文化が消費ではなく継承へと向かう旅だ。旅慣れた富裕層ほど、演出された観光体験よりも、その土地で実際に営まれている暮らしや、そこに住む人との何気ない会話を求めるという。
「皆さん、『決められたプログラムをこなす旅はしたくない』とおっしゃいます。ただ、これは何も用意しなくていい、という意味ではありません。実際にはきちんと準備されていて、それを押し付けるのではなく、必要なときに必要なものが自然と差し出される。私はそれを『ちょうどいい塩梅』と呼んでいます。
地域についても同じです。観光客向けに何かを新しくつくるのではなく、その土地が長い時間をかけて育んできた暮らしや食文化を、ありのまま分かち合えばいい。訪れた人を『お客様』のままにせず、地域の日常の中へ迎え入れていく。OutsiderからInsiderへ、という感覚ですね」
そのためには、受け入れの動線を整えることと、地域で迎える人を育てることの両方が必要だという。そこで、現在増田さんは故郷の茨城県古河市を拠点に、地域の日常に旅人を迎え入れるコンテンツづくりや受け入れの動線整備をはじめ、地域が自ら旅人を迎え続けられるように担い手を育てている。
突発的な手配も、震災時の判断も、その根底にあるのは「その場にいる人にとって、何が最善か」を考え抜く姿勢だ。数多くのVVIPが信頼を寄せる増田さんの視線はいま、お客様だけでなく、ガイドや宿、飲食店、生産者など、旅人を迎える地域の人々にも向けられている。


※ログイン後、コメント入力が可能です。