俳優として声に向き合ってきた本木にとって、それは単なる資料ではなかった。音源を聴き進めるほど、その声を集め続けた伊藤の人生にも惹かれていった。
「強い信念に導かれ、そこを貫いた人だったのだと思います。大きなひとつを選択し、自己を捧げて生きた人の潔さ。きっと、伊藤さんにしか感じえなかった孤独の深さと、伊藤さんだけが濃く味わった達成感があったでしょう。そこに、いち人間として憧れる部分があります」
本木は孤独を好みながらも、家族を持ち、人と関わる人生を選んできた。だからこそ、一つの仕事に人生を注いだ伊藤の生き方は、自分が選ばなかったもう一つの人生として映った。
「究極の選択として、家庭を持つ人生と、孤高を貫く人生のどちらかを選べと言われたら、やはり、他人と交わることの未知を選んでしまうでしょう。
自分は、孤独が好きだと言いながらも、人と関わることを選び、その柵(しがらみ)に逃げているのかもしれません。だからこそ、伊藤さんが貫いた孤高の道は、本当にすごいことだと思います。
そのひたむきさが、どうにも美しく見えて、強い憧れを感じました」
本木雅弘が語る「かっこいい大人」との重なり
伊藤が記録した肉声は、被爆を体験した人々がいなくなったあとも、次の世代へ届いていく。
限られた時間を何に使い、何を残すのか。そして、自分が選ばなかった人生に、どこまで想像力を向けられるのか。
還暦を迎えた本木雅弘が語る「かっこいい大人」の姿は、伊藤のひたむきな生き方にも重なっていた。


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