ただ、独学で受験を組み立てた立場から見ると、いま流行している「ゆる中学受験」には、単なる“手抜き受験” “意識の低い受験”には収まりきらない、もっと本質的な学びの設計論が含まれているように思える。
ここでは、私自身の独学経験と、実際にゆるく中学受験を通り抜けて東大に届いた2人の東大生、そして「元・ガチ中学受験生」への取材をまじえ、中学受験でついやってしまう勝ち方の落とし穴と、そこから抜け出すための考え方をお伝えしたい。
ガチで勝つほど、手札が「時間」しかなくなる
まず、私が長らく違和感を持っていた話から書きたい。
塾に通っている子どもたちを見ていると、成績が伸び悩んだ子に対する処方箋がほとんど毎回同じであることに気づく。「もっと勉強時間を増やそう」「もう1周やろう」「演習量を積もう」である。
もちろん量が効く局面はある。ただ、これを当たり前とする思考は、実は中学受験の設計そのものが植えつけている可能性が高い。
とくに大手塾のカリキュラムは、組分けテストで一定以上の順位を「維持し続けること」を前提に組まれている。カリキュラムは常に進み、テスト範囲が増えていく。だからそこでの合理的な行動は、立ち止まって学習法を工夫することではなく、「今週も演習量を積んでクラスを守る」ことになる。
これを何年も続けていると、時間をかければ解決する、という思考が骨の髄まで染み込んでしまう。そして皮肉なことに、勉強量で頑張って第一志望に合格した子ほど、その先でつまずきがちだ。
実際の経験談を聞いてみよう。都内の私立大学に通うYさんは、都内の御三家クラスの中高一貫校を経て、東大を目指した。しかし届かず、現役で私大に進学したという経歴を持つ女性である。彼女の小学生時代は、平日夜11時まで、土日は10時間の学習を苦にせずやり切った、ガチ中学受験経験者だ。
「小学生の頃は決まったテキストを言われた通りにこなしていれば、ちゃんと成績が上がったんですよ。だから中高の間も、参考書を何周もすればいつか届くって思ってて。でも、周りの子も同じことしてるんですよね。それに気づいたときに、じゃあ私にだけできることって何なんだろうって、急にわからなくなりました」

