しかし、地方ゆえに病院が少なく、転職も難しい。その状況下で自分を適応させるには、「波風を立てないように、うまくかわす」しかなかったという。休憩室では誰かの悪口や仕事の愚痴ばかりが飛び交い、信頼できる人もいない。孤独の中で感情を押し殺し、「これは仕方がないことだ」と言い聞かせる日々だった。
高齢者が多い病棟で、認知症や精神疾患のため患者から殴られてあざができたり、髪の毛を引っ張られたりしても、上司は「大丈夫よ」の一言で終わらせる。暴力に耐えて患者に寄り添った対応をしても、評価されることも、労いの言葉をかけられることもない。
適切な看護を提供できないもどかしさと、言われたことをやるだけの自分への違和感。その両方に苦しみながら、Bさんは「このままでは自分が腐ってしまう」と感じ、退職を決意した。
空気を読み、感情を抑え続ける
職場の中で、空気を読み、上司や同僚と争わないように感情を抑え続ける――。Bさんが耐えられなくなったのは、まさにその職場の感情労働だった。「見えない労働ですよね、本当に」。そう振り返るBさんの言葉は重い。
実際、患者の期待に応えようとして疲弊するだけではない。上司や同僚との関係の中で、静かに、そして確実に心が削られていく。そこには、もう1つの感情労働がある。そしてそれは、Bさんだけの問題ではない。多くの看護師が、同じような苦しさを抱えている。
日本看護協会の調査では、退職した新卒看護師の、看護管理者が考える主な退職理由としてもっとも多かったのは、「健康上の理由(精神的疾患)」で約53%だった。また、「上司・同僚との人間関係」も約30%にのぼり、感情労働との関連がみてとれる。同協会は「メンタルヘルス支援は大きな課題だ」と示している。


