これを看護師の仕事に当てはめると、たとえば患者が亡くなり深い悲しみを抱えた直後でも、涙をぬぐって次の患者に笑顔で接しなければならない。また、認知症の患者などから暴力や暴言などを受けても、「病気だから」と自分を納得させて耐えなければならない。
そうやって看護師は社会から期待される“白衣の天使”であり続け、感情をすり減らしながら働いている。
問題は、それは周囲から押しつけられるものだけではない点だ。
看護教育や就職した医療機関では、こうした感情労働も看護の業務の一部であると教えられる一方で、看護師自身も、感情を抑えて相手に尽くすことを学び、当然のものとして受け入れていることが少なくない。そのため、自分でも気づかないうちにストレスが積み重なっていく。
武士のように耐えるしかない
都内の専門病院で勤務したあと、神奈川県内で訪問看護師をしていたAさん(49)は、まさに感情労働の疲弊から体を壊した1人だ。
このとき、各家庭を訪ねて看護を行う現場とマネジメント業務の両方を担っていたAさん。利用者や家族の対応に加え、スタッフからの相談、他の医療・介護機関との連携、経営的な判断まで、仕事は多岐にわたっていた。夜勤こそなかったものの、夜間の呼び出しに備えるオンコール当番があり、Aさんも月に数回担当していた。
ある夜のこと、高齢の利用者の夫から緊急訪問を求める電話が入った。1分でも早く向かいたいところだが、その前に子どもや介護が必要な家族へのケアも済ませる必要がある。必死で現場へ駆けつけたが、待っていた夫にとって、その時間はあまりにも長く感じられたようだ。
その焦りと怒りはAさんに向けられた。
深夜に、個人宅という密室で、大柄な男性から「ばかやろう!」などと罵声を浴びせられるという恐怖。体がすくむような思いをしながらも、Aさんは看護師としての態度を崩さず、その場を何とかおさめた。

