こうした厳しい状況下で、旧ソ連諸国に求められているのは「複線化」の技術とセンスである。
複線化とは、単なる「バランス外交」や「等距離外交」ではない。大国間の狭間に置かれた国家にとって、依存は多かれ少なかれ不可避である。
だからこそ重要なのは、依存を「断つ」ことではなく、依存を「設計し、管理する」ことなのだ。複線化とは、危機による衝撃を吸収するための強靭性(レジリエンス)を、制度・市場・同盟・社会の各層に織り込む作業である。
国家が外部世界とつながる、あるいは影響を受ける経路を「回線」と呼ぶならば、回線が一本に偏れば相手はそこを締め上げてしまえばよい。逆に、複数の回線が並行していれば、一本が揺さぶられても別の回線へと切り替え、時間を稼ぎ、損失を抑えることができる。
回線は少なくとも5つの層に分けられる。
第二に、ガスの供給網や原発導入などの「エネルギー回線」。
第三に、港湾・鉄道・回廊などの「物流・交通回線」。
第四に、通貨・送金網・制裁耐性などの「金融・決済回線」。
第五に、言語圏・メディア・選挙インフラなどの「情報・社会回線」である。
ロシアがこれまで行ってきた介入は、これらの回線を単独で攻めるのではなく、複数を組み合わせて「逃げ道」を塞ぐ点に特徴がある。したがって、複線化にはいくつかの原則が求められる。
第一に、国家の急所を単一の外部主体に握られないよう「一本足を避ける」こと。
第二に、平時から制度・規格を整え「切り替えコストを下げる」こと。
第三に、巨額投資に伴う汚職や国家収奪を防ぐために「透明性を守る」こと。
第四に、回線を増やす動きを同盟国に戦略として説明し、「同盟調整を怠らない」ことである。
他人事ではない日本の「主権の設計」
主権を守るとは、敵を排除することではない。主権とは理念であると同時に、回線の管理能力でもある。その設計図を持たない国家から、静かに選択肢は失われていく。
複線化が示す課題は、決して旧ソ連諸国だけの問題ではない。回線の交点に立つ主体は全て狭間化する。日本も例外ではない。エネルギー供給、重要鉱物、海上輸送路、対中・対露・対北朝鮮の同時対処、情報空間の防衛など、日本の経済安全保障は世界的な回線の再編と連動している。
これらは「依存を断つ」か「依存に甘んじる」かの二択ではない。依存を断つことは新たなリスクとコストを呼び込むため、必ずしも国益に合致するとは言えないのだ。依存は不可避だが、依存の設計は選択可能である。
ロシアの隣に生きる諸国が、どの回線を増やし、どの回線を管理し、生き残ってきたのか。単純な親露・親欧米という二分法ではなく、「主権の設計」という観点から各国の生存戦略を見つめることで、来るべき危機に耐える回線構造をいかに作るかというリアリズムを学ぶことができるはずだ。

