この背景には、第二次世界大戦以降の科学技術の発展の歴史があります。それは、企業のデジタル化、AI化の流れと呼応しています。両者を貫くキーワード、それが、本書の中核を担う概念である「意思決定」です。この1語を手がかりに、国家戦略、そして企業戦略の中枢に位置づけられるAIの役割を見ていきましょう。
科学技術の発展と「意思決定」の関係
1950年代後半から、米ソは宇宙開発競争に邁進します。地球を周回する人工衛星の開発は、兵器としての長距離ロケットに直結するだけでなく、宇宙から敵国の情報を見渡したうえで、リアルタイムに自国の危機を把握し、適切な意思決定を行うことを可能にします。
この延長線上に、1990年代以降のインターネット時代があります。世界はネットワークによってつながり、ビッグデータと呼ばれる膨大なデータを収集・分析することで高精度な意思決定を行う時代に入りました。そして、AIの台頭により、国家レベルのあらゆる意思決定が高度化・自動化され始めているのです。
米国のNSCAI(人工知能に関する国家安全保障委員会)は、2021年の最終報告書において、AIを単なる技術的ツールではなく、「国家の競争力、防衛力、そして経済的繁栄を根本から変える汎用技術(General Purpose Technology)」と位置づけています[16]。AIは、国家安全保障を左右するだけでなく、企業の経済的繁栄をもたらす意思決定をも根本的に変える力を持つとしたのです。
では、これまで企業の意思決定はどのように進化してきたのでしょうか。戦後から現代まで、その歩みを辿ってみます。
戦後日本の復興を後押ししたのは朝鮮特需であり、軍需物資やサービスの提供によって、日本経済は大きくなりました。そのなかで力をつけた日本の製造業は世界を席巻し、現場が主体的に判断し改善を重ねる日本組織の意思決定のあり方、後に「知識創造」として体系化されるこの考え方は、世界中の研究者に注目されました。これが「アジャイル開発」と呼ばれるソフトウェア開発手法の源流の1つとなっていきました[17]~[19]。
その後、1990年代以降のインターネット時代、デジタル化によって企業のデータを統合して、パフォーマンスを最大化する意思決定、すなわち経営判断を迅速に行う仕組みが導入されるようになりました。
そして、AIを導入することによって、経営の意思決定はもちろん、社員一人ひとりのレベルに至るまで、AIによって意思決定のサポートがなされ、業務の効率化・高精度化が行われるようになりました。いま、あなたが生成AIに向き合っている時間は、戦後から続くこの大きな歴史の最先端に位置しています。

