「30代の時に、3回同じ派遣先になった女性と仲良くなりました。1年ほど同棲をしました。結婚を少しは考えましたが、幼少時に、両親がろくでもない別れ方をしたのを見たので、僕には結婚願望がほとんどないんです」
戸田の人生は就職氷河期世代の一例
結婚にも希望が持てない。内閣府の調査では、就職氷河期世代では「結婚に積極的でない理由」として「経済力・不安定就労」を挙げる割合が他世代より高くなっていた。
戸田正和の人生は、就職氷河期世代のひとつの姿だ。
最初の就職につまずき、正社員になれないがゆえに職歴がつかず、自己評価は削られていき、その後の選択肢がせばまっていった。本人はもがいてみるも、社会は非正規雇用というレッテルを貼った。
それでも戸田は生きることを諦めず、日々を楽しむ意識を持つ。
「2日前にパチンコで10万円プラスにしてきました。無理に仕事を入れなくても、今月いっぱいは余裕で生きられるぐらいのお金があります」
銀行口座の残高は209円でも、手元にその金はある。今月なら行きたくない仕事は断れる。日払い仕事は一日我慢すれば終わる。そのような一日一日の積み重ねこそが人生だ。
この取材は、周囲の目を避けるためにカラオケボックスで行われた。取材後、戸田は「せっかくなんで歌っていいですか」と曲を入れた。TUBEの『夏を抱きしめて』だ。1994年に94万枚の大ヒットとなった曲、戸田が高校を卒業するころに流れていた。
曲調にどこか聞き覚えがある。
就職氷河期世代に、また夏がやってくる。

