百貨店に求められる役割そのものが、岡崎では変わっていた。
「一つの百貨店」ではなく「街全体を百貨店に」
松井さんは、それでも前を向く。
「まだまだ頑張れますよ」
康生地区には100年を超える老舗も多い。一番苦しかった時期を知るからこそ、街にはまだ可能性があると考えている。
その象徴が、昨年11月にオープンした「康生百貨店」だ。名前は百貨店だが、かつての百貨店とは役割が違う。一つの建物に店を集めるのではなく、街全体を一つの面として捉え、新しく商売を始めたい人を受け入れ、街のにぎわいの「卵」を育てる拠点にしようという試みである。
行政もまた、街の役割を見直している。市が進める「QURUWA(クルワ)プロジェクト」は、岡崎城の曲輪(くるわ)に由来する名前だ。
岡崎公園から康生通、籠田公園、乙川沿いを経て東岡崎駅前へ、Q字型に回遊できるエリアを一体的に整備する構想で、橋や公園、川沿いの広場を活用しながら「歩いて過ごせる街」への転換を目指している。
あの日、父母と手を繋いで歩いた百貨店ーーそんな光景が、この街で生まれることはもうないのかもしれない。
ただ、だからと言って岡崎の街の良さが消えたわけではない。賑わいを再び生み出そうと奮闘する人々もいる。
今はまだ卵だという賑わいは、どんな風に身を結ぶのか。岡崎の未来は、日本の都市のこれからを示すかもしれない。

