競馬である。
しかし、世間ではサッカーのワールドカップである。25日に執筆を終了しているので、26日のスウェーデン戦の結果は、すでに出ているだろう(編集部注:1対1の引き分け)が、「日本はいつからこんなに強くなったんだ?」という、ワールドカップのときしかサッカーを見ない人々が、ここ数年の日本の世界ランキングの推移も、個々の選手の欧州リーグでの活躍がごく当たり前になったことも知らないのはご愛敬だが、その理由は、やはり個々の選手が非常に強くなったことだと思う。それも、技術ではなく、狭い意味でいえばメンタル、的確に言えば、人間として、サッカー選手としての全人格で成長したからだと思う。
日本人のメンタルの弱さがサッカーワールドカップでの「ふがいなさ」の歴史の理由と言われることも多かったが、しかし、野球を見ていると野球のWBC(ワールドベースボールクラシック)では、そういう気配はまったくない。過去にもない。現在、アメリカの大リーグで活躍している選手にもない。少なくとも、野茂英雄選手のときからない。
かつての、日本のJリーグの選手とプロ野球選手の違いは、私の観察では、前者は選手同士で仲良し、一緒に遊ぶ、おそろいのファッションなどが特徴で、後者は、選手同士はあまり一緒に遊んだりしない、ということである。サッカーは完全な個人プレイで、野球はチームプレイと言うが、野球も個人プレイというのもある。そして、プロ野球選手(大リーガーも)は、子供のころから、あるいは高校まではエースで4番(いまは大谷翔平選手のように最高のバッターは1番か2番だが)、孤独な大エースだったのである。つまり、人間として、良くも悪くも、独立していたのである。
いまや、サッカーもみな欧州でプレイするようになった。Jリーガーたちも多くの選手が欧州を目指し、あるいはJリーグを選択するとしても、意識がまったく変わったのである。Jリーグの決められた世界の中で、安定して活躍してそれでいい気になるという選手はいなくなったのである。さらに、欧州リーグのチームでプレイするとどうなるか。孤独である。何らかの差別をされる。そうでなくとも、孤独であり、人間社会としてのチームが中心ではない。だから、何よりも自分一人で頑張るしかない。そこで強いアスリートとしての人格が育つのである。
海外で鍛えられた強い「個」で、日本競馬はさらに強くなれるはず
もちろん、アスリートだけでなく、われわれ学者にとっても同じで、留学、そして、経済学者ならアメリカでジョブを得続けること、それは、非常に孤独な中、自分のホームグラウンドで頑張るのとは違う戦いがある。そこで強くなった個は、組織に入れば、強い個のまま、チームプレイヤーとしてもより成長したメンバーになるのである。スピードスケートの金メダリスト、小平奈緒選手のオランダ留学もそうだったろうし、それは個人プレイのアスリートにとっても同じである。
そういう個が、母国に戻ってチームになれば、今まで以上にチームに、母国のために戦う意欲に溢れるのである。だから、強くなる。日本チームは、今、その最高のバランスの中にいるのではないか。欧州の選手はもともとホームでクラブがあり、ホームでワールドカップチームもある。だから、日本チームの強さと美しさは欧州よりも、今は際立っているのである。
JRA(日本中央競馬会)も、ぜひこれを目指してほしい。JRAの「純粋培養騎手」の弱さは、完全に管理された、インナーサークルでのスターであり、かつ、序列、上下関係、同調圧力に支配されている。それが、海外騎手だけでなく、地方競馬出身騎手に、技術では勝っても、勝負に勝てない理由である。通信機器の使用の問題、調整ルーム問題などは、過去の時代とは違うのだから、JRAも思い切って、馬やレースだけでなく、もっと開かれた組織、開かれた騎手たち、調教師の世界を作ってほしい。本当は、調教師の門戸を幅広く開放し、外厩、内厩などをなくしてしまうのがいいと思うが、現状は無理だし、不適当、かつ日本競馬においては、永久に難しくかつ妥当ではないかもしれない。しかし、少なくとも、調教師の世界は広げる必要がある。
さて、週末28日のレースは、まず福島競馬場で行われるラジオNIKKEI賞(G3)。一皮むけた松山弘平騎手が騎乗するローベルクランツと地元出身の田辺裕信騎手騎乗のサノノグレーター。もう1つ、同日の函館記念(G3)は、マジックサンズは外せないが、ある種サラブレッド、大スターでありながら、個の強さをデビュー当時から持っていて、さらに偉大になり続けている武豊騎手騎乗のケイアイセナ、地味だが実力者の大野拓弥騎手騎乗のアラタ。函館競馬場が得意のこの3頭を。

