一級建築士であり、1級建築施工管理技士でもある那須さんは、BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)の専門家。10年以上デジタル建築に携わり、海外でのプロジェクト経験も豊富で、APECアーキテクトの資格も持つ。そんな那須さんにとっても、今回は未知の領域だった。
早くから大型プリンターの可能性に注目していた那須さんは、インドネシアでの視察中に偶然、「築(KIZUKI)」の五十嵐さんと出会う。「他社が真似できないデザインを最初にやろう」と意気投合し、高さ約6mの2階建て、円筒形という、前例のない挑戦が始まった。
最終的に設計・監理・施工の統括を担ったオノコムは、モルタルで壁を印刷し、部分的に鉄筋とコンクリートを流し込む工法を採用。壁は、外側、中間、内側という三層構造(中間層がサポート、外側の空洞が給排水スペース、内側の空洞が断熱・配線スペース)とし、性能のすべてを3Dモデルで事前検証した。
「安全管理には細心の注意を払いました。壁が10度以上傾くと崩れる可能性があるためシミュレーションを徹底し、印刷強度も逐次検査しました。前人未到の工法だからこそ、わからない危険に備える必要があった」と那須さんは振り返る。
現場では、気温による材料の挙動や印刷精度の調整など、試行錯誤の連続だった。しかし結果として、基礎から2階までの一体印刷だけでなく、床のアウトラインまでプリンターで造形するという、海外でもほとんど例のない高度な工法を実現してみせた。
さらに「やれる難しいところは全部やろう」と、3Dプリンター製の照明や、植物由来セルロースを使用した3Dプリントキッチンの製作など、多様な最新技術を積極的に採用。那須さんはまさに、多くの技術と関わる人々の想いを束ねる「指揮者」だった。
技術だけではなく、『人の力』で完成した
「世界の最先端の技術を見て将来やりたいと思っていたものを、この日本の住宅に落とし込みました。新しいことを切り開くことに深く共鳴してくれる方たちが多く、本当に心強かった。このプロジェクトは、技術だけではなく、『人の力』でできた建物だと思っています」
そう語る那須さんの表情には、技術者としての誇りと仲間への感謝がうかがえた。

