現在、那須さんはフィリピン政府とも協力関係を構築し、現地でデンマーク製の大型3Dプリンター機械を用いて、記念すべき第1棟の完成を目指している。
「日本が法律を整えている間にフィリピンで新しい工法を試し、私の技術や知識、ノウハウを必要とする人たちに届けたい」
5月、現地に五十嵐さんをフィリピンに招待し、共同プロジェクトを進める計画も動き出している。那須さんの挑戦は、日本とフィリピンの国境をまたぎながら、さらなる未来へと加速している。
「宮城県でやるなら応援する」。地域の未来のために挑戦を支えた覚悟
そして、この挑戦の舞台を提供したのが、栗原市で多彩な事業を展開する大場一豊さんだ。
地元企業の経営者として、「ふるさとの築館町に人を呼び未来につなげたい」 という熱い思いから、五十嵐さんの計画を聞いて即決で支援を決めた。
「最初に『ビジネスだから、失敗することもあるよ』と言ってくれました。そんな海のものとも山のものともわからない計画に賭けてくれたんです」と五十嵐さん。自らもさまざまな挑戦をして失敗や苦い経験しているからこそ、その言葉には重みがあった。
大場さんは、栗原市に会社の本社を置くことを条件に「宮城でやるなら応援する」と約束。その一言が、日本初のプロジェクトを動かしたのだ。
現在、「ステルスハウス」は視察依頼が相次いでいる。「地震や台風、火災にも強い安全性が高い建物。旅館としての許可も取ったので、宿泊予約システムを準備中です。若い人が宿泊してeスポーツなどを楽しんでほしい」と今後の展望を語る。
実は大場さんは、この建物の周辺一帯に温泉施設やスポーツジム、ホテル、食品加工工場などを含む巨大な建設プロジェクトを計画しており、来年オープン予定だ。さらに乗馬コースや、森林セラピーの散策路、音楽スタジオの設置も目指している。
広大な土地を案内しながら、大場さんは「夢のような現実」について目を輝かせて語ってくれた。地域の未来を描く大場会長の大プロジェクト構想の起点、そして象徴として、この「ステルスハウス」は力強くたたずんでいる。
日本初の2階建て3Dプリンター住宅は、最新の技術や機械だけで生まれたわけではない。「誰もやっていないことに挑む勇気」と「技術を形にする強い意志と行動、調整力」、「地域の未来を思う決断」という三つの力が結集した結果だ。
「ステルスハウス」は、日本でも3Dプリンター住宅は実現できることを証明し、新たな扉を開いた。そして、法規制の整備、技術者や実績の拡大、施工品質と耐久性の証明などがこれから進んでいくだろう。
宮城県の山あいの、のどかなまちで始まった、建設業界の未来を変えるだろう1棟目。ここからどんな景色が広がっていくのか。その続きを、また見届けに足を運びたい。
取材・文/佐藤由紀子

