SNS上では過去の笑顔さえも「作り笑い」として再解釈される声が相次いだ。選挙期間中に見せてきた穏やかな表情が、すべて「演じていたもの」として記憶の中で書き換えられていく。
見た目戦略によって積み上げてきた信頼性の蓄積が、知識バイアスによって一瞬で崩れ始める。
これが「見た目戦略の成功が、その後の失墜をより深くする」という逆説の正体だ。
「強い顔」を持つ人はどうしたらいいのか?
これは政治の世界だけの話ではない。職場でも同じことは起きている。
「強いリーダー」「厳しい上司」。支配性の高い顔立ちの人物は、熱烈なファンと激しい批判者を同時に生む。一度「あの人は怖い」という印象が定着すれば、些細な無表情も「機嫌が悪い」と解釈される。確証バイアスが働き、その印象はますます強化されていく。
では、どうすればよいのか。
トドロフ氏の研究が示す「信頼性の高い顔」の条件は、表情のコントロールにある(※1)。穏やかな表情、安定した視線、わずかに上がった口角――これらを意識的に維持することが、信頼性の蓄積につながる。
高市首相が示したように、見た目戦略は確かに効果がある。しかし今回の事態が明らかにしたのは、それだけでは不十分だということだ。
表情のコントロールは「ここぞ」という瞬間だけでなく、バツの悪い質問をされた瞬間にこそ問われる。笑顔を維持できるか。あるいは、なぜ笑えないかを言葉で補えるか。
トドロフ氏の言葉を借りれば、信頼性の印象とは「相手の意志の善悪を読み取ろうとする努力」の産物だ(※1)。顔から意志が伝わるかどうかーーそれが、「強い顔」を持つ人が問われ続ける、永遠のテーマなのかもしれない。
※1:Todorov, A., M. Pakrashi & N. N. Oosterhof (2009) Evaluating faces on trustworthiness after minimal time exposure, Social Cognition, 27(6), 813-833.
※2:Todorov, A. (2017) Face Value: The Irresistible Influence of First Impressions, Princeton University Press.(中里京子訳『第一印象の科学』みすず書房、2019年)
※3:Wason, P. C. (1960) On the failure to eliminate hypotheses in a conceptual task, Quarterly Journal of Experimental Psychology, 12(3), 129-140.
