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元ソフトバンクグループの「AI講師」がウォール街やシンガポールで引っ張りだこになっている理由

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(写真:ブルームバーグ)
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シンガポール在住のダンカンさん(55)は昨年、南洋理工大学が支援する講座で、夜間や週末にAI活用を学んだ。ダンカンさんの勤務先だった大手銀行は、それ以前にシンガポール業務を海外の低コスト拠点へ移管していた。

姓の公表を控えることで取材に応じたダンカンさんは、9カ月間の失業後、シンガポールの銀行でバックオフィス業務の職を先月得た。新たに身につけたスキルに希望を感じている。

何人もの経営幹部がAIによる生産性向上を評価する一方、強固な財務基盤だけでは雇用を守れなくなるとの懸念が強まっている。

AIコンサルティング会社ニューロンズ・ラボのイゴール・シドレンコ最高経営責任者(CEO)は、アナリストという職業は消滅しないが、下位層から縮小していくとみており、「高度なスキルを持つ人材は、AIツールを使えば10倍、20倍の仕事を、より高品質かつ迅速にこなせるようになる。自分でできるようになるので、ジュニアの金融アナリストやアソシエートは不要になるだろう」と話した。

シンガポールのヘッジファンド、リーガル・ファンズ・マネジメントのバイサイドアナリスト、ジャスティン・タン氏も、格差を埋めなければという不安を実感してきた。

タン氏は3年間、バスでの移動中や会議の合間、多くの人がスマートフォンを眺めるようなわずかな時間を使って独学でAIを学んできた。そして昨年、ワン氏とシニステラ氏に出会った。

タン氏は、「光が差したような瞬間だった。以前は1社の企業分析に何時間もかかっていたが、今ではプロンプトを入力すれば90秒で主要ポイントを得られる。企業概要や利益の原動力、ストーリーが分かる」と話した。

その後、タン氏はBofA主催によるものを含め、ウォールストリート・プロンプトの研修に何度も参加した。1回の講座は通常20-30人規模で、費用は主催する銀行が負担しているという。

タン氏は「大手銀行がウォールストリート・プロンプトの講座を私たちのような顧客向けに提供し始めたことに驚きはなかった。問題は、提供があるかではなく、いつ始まるかだった」と語った。

タン氏は学んだ手法を主に個人的用途で活用しているが、本業でも利用している。リーガルでは提出資料や決算説明会のスクリプトなど公開情報に限定して使用し、顧客データは入力していない。

若い頃からテクノロジーに関心

シニステラ氏とワン氏は共に若い頃から金融に関わり、早い段階からテクノロジーへの関心を示していた。シニステラ氏は6歳で両親に連れられコロンビアから米国へ移住した。一方、ワン氏はニューヨーク生まれだが、両親は1980年代に中国から移住してきた。

ワン氏によれば、8歳でオハイオ州へ移ったころにはオンラインゲーム「RuneScape」向けスクリプトを販売していた。

ハーバード大学在学中には、配車サービスのリフトがボストン事業拡大のため採用した学生5人の一人となり、街頭で名刺を配ったという。しかし、その方法にとどまらず、地元大学の学生メールアドレスを収集し、メールマーケティングとクーポンコード配布を実施した。その紹介実績だけで学費を賄えたとしている。

2016年にブラックストーンでインターンを経験し、17年から2年余りモルガン・スタンレーで勤務した後、19年にソフトバンクGの中南米ファンドへ加わり、暗号資産(仮想通貨)投資を統括した。

約2年半後に退社し、デジタル資産ファンド99キャピタルを設立。投資家に利益をもたらした後、ファンドの運営権を売却し、事業から離れた。

「私には非常に明快だった。自分の時間の約30%をAI活用手法の開発に使い、それが過去最高のリターンを生んだ年になったのなら、時間の100%をそこに投じるべきだと思った」とワン氏は語った。

シニステラ氏は大学卒業後、メタ・プラットフォームズ傘下の「フェイスブック」事業にソフトウエアエンジニアとして加わった。自身のデスクは、メタのマーク・ザッカーバーグCEOから約20フィート(約6.1メートル)の場所にあったという。

その後、ゴールドマンとBofAを経て、19年にソフトバンクGでフィンテック部門責任者となり、15億ドルを超える投資の実行に関与した。2人はソフトバンクGで共に働く中で、絶えず意見交換し、それぞれ独自のAI活用手法を磨いていった。

ワン氏は22年、シニステラ氏は23年にソフトバンクGをそれぞれ退社した。25年夏にはサンフランシスコで1カ月間共同生活を送り、コワーキングスペースで働きながらAIと金融に関するニュースレターや投稿を発信した。

それらの継続的な読者は、ヘッジファンドの運用担当者や金融アナリストだった。当初はデータ事業を立ち上げる計画をしていた2人だったが、教育事業の機会の方が魅力的だと判断したという。

「人々は、私たちにはツールはあるが、あなたたちのような使い方が分からないと言っていた。彼らが求めていたのは、追加のソフトウエアではなく学習だった」とシニステラ氏は打ち明けた。

ウォールストリート・プロンプトを25年7月に設立してから2カ月以内に、大手投資会社から連絡があり、2人はニューヨークからその本社まで列車で2時間かけて移動し、株式・債券・マクロ戦略チーム向けに研修を行ったと、事情に詳しい関係者は話す。参加者は上級ストラテジストから若手アナリストまで幅広かった。

シニステラ氏によると、ほぼ全ての顧客が追加セッションに参加した。その中には運用資産500億ドル超のファンドがあり、契約締結を進めているという。同氏はファンド名の公表を避けた。

ワン氏とシニステラ氏は、彼らの強みを維持する取り組みにも余念がない。金融機関の思考パターンを理解するよう訓練したAIエージェントを取りそろえた。目標とするのは、AIに業務上の事務・技術作業の90%を担わせ、人間は人間関係や判断力、リターンを左右する意思決定に集中できるようにすることだと説明する。

この市場に参入する企業は増えている。ブレア元英首相の長男ユアン・ブレア氏が設立したロンドンのリスキリング企業マルチバースは、シティやマイクロソフト、KPMGなどを顧客に抱え、2年間で1万5000人のAI人材を育成する計画を掲げている。

ニューヨークのスタートアップ、ロゴ・テクノロジーズは、ラザードやJPモルガンの元銀行員らが創業メンバーに名を連ね、アナリストの業務だった調査・デューデリジェンス(資産査定)を自動化するソフトウエアをアピールし、今年の「シリーズD」ラウンドで1億6000万ドルを調達した。企業価値は20億ドルに達した。

シニステラ氏とワン氏は現在、AIスキル不足に不安を感じる金融専門職向けにライブ配信型ウェビナー商品を開発している。費用は1人当たり1500ドルだ。

シニステラ氏は、「人々が本当に対価を払っているのは、単なるプロンプトやテンプレートではなく変革そのものだ。私たちの役割は、その変化のきっかけをつくることにある。誰もが既に変化を意識している。ただ、どの方向へ進めばよいか分かっていないだけだ」と語った。

著者:Rthvika Suvarna、Olivia Poh

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