「佐藤さん。いますぐ資料を持たずに、会議室402号室へ来てください」
事務的な、温度のない呼び出しだった。
佐藤が重い足取りで4階へ向かうと、会議室402号室の前には、情報システム部のチームリーダー・鈴木(28歳)が立っていた。以前、パソコンの調子が悪いときに「佐藤さん、これならすぐ直りますよ」と快く助けてくれた、あの爽やかな鈴木ではなかった。
鈴木は佐藤と目を合わせることなく、ただ無機質にドアノブをつかんだ。
「……入ってください。部長がお待ちです」
鈴木の手はわずかに震えていたが、その声には、自分たちの週末を、そしてこの会社の未来を破壊した「原因」に対する、抑え切れない嫌悪が滲んでいた。
巨大なモニターに映るログ
佐藤が足を踏み入れると、長机の奥に、中村と黒いスーツを着た見知らぬ男たちが3人、一列に座っていた。背後の巨大なモニターには、佐藤が週末に送信したメールのログ、そしてスマホのアクセス履歴が、血の跡のように赤く強調されて映し出されていた。
「部長、一体何が……」
佐藤の問い掛けを遮るように、中村は正面のいすを指さした。
「座りなさい、佐藤君。……いまから、君のすべてのデジタルデバイスを没収し、フォレンジック調査(法的手続きに利用できる形で証拠を確保する活動)を開始する」
中村の声は、死人のように低かった。
「帝国自動車を沈黙させたウイルスの発信元……。すべてのログが、君のアカウントと、君のスマホを指し示している。君のアカウントが、帝国自動車を、そしてわれわれを地獄へ突き落としたんだ」
その瞬間、佐藤の視界がぐにゃりとゆがんだ。
「そんな。僕は、ただ、会社のために資料を完成させようと……」
佐藤の顔から、すべての色が消えた。自分はただの被害者だと思っていた。だが、いまこの瞬間、自分だけが「容疑者」という名の深淵へと突き落とされたことを、彼は理解した。彼はその場に崩れ落ち、震える手で顔を覆った(後編はこちら)。

