世界最大の資産運用会社のドイツ部門の幹部を務め、ドイツ国内を自家用ジェット機で飛び回るというメルツ氏の希薄な庶民感覚が、最大の弱点になりつつある。
フランスのマクロン氏同様、メルツ氏の有権者への対応は「上から目線」であることが多く、ビジネスリーダーにありがちな一方通行の意志決定者の印象を有権者に与えている。また大企業寄りの政策が目立つことは、一般の有権者をいら立たせている。
イラン戦争の影響とトランプ大統領による関税引き上げの脅威は、ドイツ経済の構造的問題を悪化させるばかりで、政府は成長予測を下方修正せざるをえない状況にある。公約に掲げた早急な経済回復は実現できていないだけでなく、掲げた目標自体が現実味を失っている。高齢者を含む一般庶民から財界まで失望させているメルツ氏の求心力は急速に落ちている。
トランプ批判よりもレームダック化が深刻
欧州主要国であるイギリスやフランス、ドイツは経済成長の鈍化、深刻化する移民問題、物価高、エネルギー問題、ウクライナ戦争への対応などの難問で苦戦し、既存の大政党への不信感が広がっている。
そのような中、反EUの極右ポピュリズムが台頭し、彼らは政権奪取にあと一歩まで迫っている。マクロン氏、スターマー氏、メルツ氏は求心力が低下し、激変する国際環境に対処できていない。
この状況を見逃さない中国やロシアはヨーロッパ分断に動いており、弱みを持つ経済からヨーロッパに急接近している。ドイツは安価なロシア産のエネルギーを導入し、かつ中国へ輸出するという「戦後モデル」が揺らぎ、国家戦略自体の再構築を迫られているが、既存政党には打つ手がない。
スターマー政権は保守党政権の混乱後に登場したものの、「熱狂的支持」というより「消去法支持」の側面が大きい。長期緊縮財政の疲れも出ている。3カ国ともに中間層が不安定化し、ウクライナ危機以降、エネルギー調達に困難をきたし、イラン戦争でさらに悪化している。
大国だっただけに改革に対する抵抗感や福祉大国への自負もあり、社会保障予算が膨らみすぎた一方、有権者も政治家も頭を切り替えられずにいる。東西冷戦終結後のグローバリゼーション3.0もひずみが生じ、一方で内向きな姿勢のアメリカや中国市場の不調の影響もある。
さらに、アメリカ1国依存からの脱却を迫られているが、自立するだけの軍事力も経済力も整っていない。さりとて、新たな世界の枠組み作りの見通しも立っていない。日本を含め、足元を固めなければ生き延びること自体が困難な時代に入っていると言えそうだ。
