このように、フィンランドの医療制度は自然のなかですごす利点を治療の一環として取り入れようと努力を続けている。自然から得られる恩恵を調査する近年の研究で、研究者たちは患者に「人と親しくできていると感じている」、「自分は変われると思う」、「いまリラックスしている」といった項目に当てはまるかどうかを尋ねた。
すると、自然のなかでのトレッキングに参加した患者は、精神のウェルビーイングやストレスの軽減が臨床的に有意に認められた。とくに森のなかでのトレッキングには、不安感や不眠、身体の痛みにも効果があることがわかった。似たような取組みはイギリスでもおこなわれており、不安障害などメンタルヘルスの問題を抱える患者に対して、総合診療医が治療の一環として、自然に親しむ活動をしてくださいと助言している。
フィンランドでプロジェクトに取り組む生物学者のアデラ・パユーネンは、樹木から得られるウェルビーイングは「自分は守られている」という感覚とつながっていると考えている。だから「傷の手当てができている」と感じるのだ、と。
人間の美意識はどこから生まれたのか
この考え方は「眺望・隠れ場理論」とも通じるところがある。これはイギリスの地理学者ジェイ・アプルトンが提唱し、1970年代半ばに初めて発表した理論で、人間の美意識は機会(眺望)と安全(隠れ場)を求める生来の欲求から形成されるとしている。言い換えれば、私たち人間は生き延びるうえで助けとなるものを美しいと感じるように進化してきたのだ。
身を置いている環境から広々とした景観が見えるのであれば、私たちは「眺望」を得ているという感覚を覚える─―あるいは、スティーヴン・カプランが注意力回復理論で「広がり」と呼んだものを。同時に、その環境におびえずにすむ洞窟や、身を潜めていられそうな場所があれば、「隠れ場」を得たように感じる。
もしかすると、森の奥深くまで歩いていくと、「ここなら安全に回復できるはずだ」と、身体が進化の記憶をよみがえらせるのかもしれない。
(翻訳:栗木さつき)
