これまで挙げてきた研究は、おもに裏庭や公園といった場所で自然と触れあうことを対象にしていた。だが私は「シンリンヨク」(森林浴)という日本の慣習についても勉強するようになった。「シンリンヨク」を英語に翻訳すると「forest bathing(森での入浴)」となる。
とはいえ、実際に森で入浴するわけではないが、ただ公園のなかをそぞろ歩くのとは違い、もっと慎重に、意識して自然と関わろうとする行為を指す。べつに運動をする必要はない─―散歩、ハイキング、ジョギングなどをする必要もないのだ。ただ自然のなかに身を置き、五感を駆使して自然と交流するだけだ。
イングランドの森林を管理する政府機関フォレストリー・イングランドは、初心者のための森林浴ガイドとして、スマホなどのデバイスの電源を切り、歩く速度を落として、周囲の環境を注意深く意識することを推奨している。
フォレストリー・イングランドのガイドによれば、最初のうちは森のなかで長時間すごしていると落ち着かない気分になるかもしれないので、まずは気持ちよくすごせるだけの時間にとどめ、それから少しずつ滞在時間を長くして、最終的には2時間、すごせるようになるといいそうだ。
自然を「処方」するカナダ・フィンランド
これらのエビデンスが日増しに大きな説得力をもつようになったので、カナダ医師会は文字どおり自然を処方する計画を推奨した。これはPaRxと呼ばれる国のプログラムで、医療の専門家が患者の症状にあわせて、自然のなかですごす計画を個別に処方する制度だ。
かたや、国土の75%が森林に覆われ、穏やかで美しい風景が広がるフィンランドでは、このようにいわば自然を処方する方法が、すでに治療計画の一部に組み込まれている。クリニックや病院によっては、患者を国立公園のガイド付きトレッキングに連れていくほどだ。
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【トレッキングは不安感や不眠にも効果がある】
