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政治・経済・投資 #狂気に正気で立ち向かった男・中村哲

権威の象徴たる白衣を脱いで作業着に着替えた中村哲、「片腕一本、切り落として詫びるしかなかった」という腹の据え方

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(撮影:西谷文和)

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大国の「力による支配」が横行する現代。世界を戦争の狂気が覆っている。
「イランを石器時代へ逆戻りさせる」と述べたアメリカのトランプ大統領は、記者から「発電所への攻撃は戦争犯罪ではないか」とただされると、イランの体制側が多くの反体制派を殺したと指摘。そのうえで「彼らは動物だ」と言い放った。
かつてナチス・ドイツはユダヤ人を「ネズミ」「害虫」などに例えて「脱人間化」を図り、加害の心理的ハードルを下げて、ホロコースト(大量虐殺)を行った。人間を動物に貶めて殺害する、最も危険な人間観を米大統領が口にする時代が到来したのだ。
これが国際政治のリアリズムだと訳知り顔で語る人は多いが、医師の中村哲さん(2019年12月4日没・享年73)は、世界を覆った狂気に一貫して正気で挑んだ。
デジタル連載【狂気に正気で立ち向かった男・中村哲】の第3回(最終回)は、中村さんがいかにして「現場」で格闘したか、どれだけの覚悟をもって現実に対峙したかを描く。

アメリカとイランの和平協議が難航している。アメリカは、「壮大な怒り」作戦と称してイランを攻撃したが、ハメネイ師を殺害した後の確たる戦略はなく、迷走が続いている。

アメリカが、怒りに任せて他国を攻撃したのは、今回が初めてではない。2001年、「9.11アメリカ同時多発テロ」で2977人が亡くなり、世界は一変した。ジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)は、テロの首謀者とされるオサマ・ビンラディンが潜伏しているアフガニスタンのタリバン政権に、彼の身柄の引き渡しを求める。

アフガンの人々は合点がいかないはずだ

「悲しみは怒りへと変わり、怒りは決意に変わった。敵を裁きの場に」とブッシュ氏は拳を振り上げた。タリバン側が、ビン・ラディンが真犯人だという証拠を示せと応じると、問答無用とばかりアフガニスタンを空爆する。ちなみにテロ実行犯19人の主体はサウジアラビア出身者で、アフガン人は一人も含まれていなかった。「対テロ戦争」は怒りのはけ口として始まった。

こうしたアメリカの行動に対し、中村さんは、こう反論した。

〈いま(アフガニスタンの)一般の人々は、ビンラディンと自分たちが結びつけられていることに合点がいかないであろう。繰り返すが、何百万人もの人々が飢餓線上にいるのである。にもかかわらず、助けてくれるどころか、ビンラディンが潜伏しているというだけの理由で、なぜ世界中の大国から攻撃されなければならないのか。(略)『人権』というなら、ではアフガニスタンの人びとの『生存権』についてはどう考えるのだろうか〉(『空爆と「復興」 アフガン最前線報告』)

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【小麦粉と食用油を配ろう】

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