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1892年創業「町の電気店」が店内におしゃれなイタリアンを併設した訳 "超多角経営"で歴史と地域の居場所を守る

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「まちのイタリアン hallelujah」の入り口
テレビの展示スペースの隣が「まちのイタリアン hallelujah」の入り口(写真:筆者撮影)
  • 永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー
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「庭いじりもしていたし、買い物にも出かけていた方が外出しなくなったことで一気に足腰が弱ったのだと思います。また、地域の世話役を務めるほど活発だった方が、コロナ禍で人とのつながりを失い、急速に衰弱しました。やがて亡くなり、その後を追うように奥様も亡くなりました。人との関わりがなくなると、ここまで弱ってしまうのかと思いました」(黒田さん)

認知機能の低下も顕著だった。今さっき説明したことを忘れて何度も電話してくる人や、感情のコントロールが難しくなり、家族に対して暴言を吐いたり、テレビが映らないと怒鳴ったりするケースもあった。

「すべてコロナのせいとは言いきれませんが、老いを一気に加速させて、人の心の自由を奪ったのは間違いないと思います。コロナの一番の害は、人と人を断絶させたことでした。この気づきが、新たな事業の出発点となりました」(黒田さん)

人と人との接点を生み出すパン屋

22年、本社の駐車場の脇にオープンしたパン屋「NIjIPAN(にじパン)」がそれだ。一見すると、どの町にもある焼き立てパンの店のように思えるが、「歩いて来られる」、「自分で選べる」、「人と会話できる」という3つのコンセプトのもとに設計されている。

「NIjIPAN」のパンは「まちのイタリアン hallelujah」のランチでも提供される(写真:筆者撮影)

パンは高齢者でも食べやすい柔らかくて甘いものをメインにして、来店客には必ず声をかける。あえて面倒くさいパン屋にすることで、人と人との接点を生み出した。現在は店舗と自動販売機を合わせて8拠点に展開している。

売上高は月約500万円に達し、従来の家電事業(同600万〜800万円)に匹敵する規模に成長しつつある。ただし、収益面は決して楽ではない。ここ数年は赤字が続いており、現在はレストランと合わせて収益改善を進めている段階だ。「3個買っていた人が2個になる。それが現実です」と黒田さんは言う。

運営面でも特徴がある。NIjIPANでは「朝早く来なくてもよい」、「職人でなくても作れる」というビジネスモデルだ。通常は深夜から仕込みを行うパン業界に対し、午前6時出社でも回る仕組みを構築。発酵管理などにデジタル技術を活用し、未経験者でも一定品質の商品を製造できる体制を整えた。実際、オープン時は20歳前後の新卒3人で立ち上げている。

黒田さんは、パン事業を海外に展開する構想を進めている。候補地の一つがインド・バンガロールだ。IT企業が集積する都市であり、富裕層や中間層の拡大が見込まれる一方で、日本と同様に都市化の進展に伴うコミュニティの希薄化が課題となりつつある。

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【電器店の中にイタリアンがある理由】

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