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1892年創業「町の電気店」が店内におしゃれなイタリアンを併設した訳 "超多角経営"で歴史と地域の居場所を守る

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「まちのイタリアン hallelujah」の入り口
テレビの展示スペースの隣が「まちのイタリアン hallelujah」の入り口(写真:筆者撮影)
  • 永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー
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「電気店になってもやっていることは同じです。お客さんが困っていることを解決する。それだけなんです」と4代目社長の黒田保光さんは言う。

「K-DIC」外観。広々とした駐車場も完備している(写真:筆者撮影)

戦後、暮らしがかまどから電気釜へと移る中で電気事業へ参入し、高度経済成長期にはテレビやステレオが並ぶ一方で鍋や釜、鍬も扱うという、過渡期ならではの店だった。いつも近所の人たちが用もなく集まり、お茶を飲みながら会話を弾ませていた。

「学校から帰ると、店に来ていた近所のおじいちゃんに説教されるんです。当時は面倒くさいと思っていましたが、『誰も見ていないところでヤンチャしたらあかん』、『お天道さんが見ている』といった言葉は、今になってありがたく思えます」(黒田さん)

黒田さんは大学進学後、保険会社に就職し、東京と大阪で勤務した。入社5年目に経験した営業研修で、売るのではなく役に立つことを伝えるという姿勢に転じ、最優秀営業賞を獲得した経験が、現在の経営理念の原型になっているという。30歳で帰郷し、42歳で父親の後を継いで社長に就任した。

K-DIC代表取締役社長の黒田保光さん(写真:筆者撮影)

帰郷後のK-DICは、家電販売にとどまらず事業領域を広げていく。電気の修理に行けば水漏れの相談を受け、配管やリフォームへとつながる。高齢の顧客から「夜眠れない」と相談されれば枕や布団を提案し、「外に出たい」という声からはバスツアーまで企画した。

量販店やネット通販が普及しても、小まめに顧客のもとを訪れては御用聞きという営業スタイルで順調に売上を伸ばしてきた。

コロナ禍で孤立化が進んだ高齢者のために

しかし、コロナ禍でそのモデルは大きく揺らぐ。訪問できない、会えないという状況が続き、強みであった御用聞きの機会が失われたからだ。それ以上に黒田さんが危機感を抱いたのは、高齢者の変化だった。

「富山の人は真面目ですから、家族に『外に出ないで』と言われたら徹底的に守るんです。結果的に、人と会わなくなる。実際、電球の交換で訪問しても『ごめんね、ごめんね』と言いながら顔を合わせようとしない方が増えました」(黒田さん)

2020年の冬を前に、毎年エアコンの冷房から暖房への切り替えを頼まれていた顧客と連絡がつかなくなった。不審に思って訪問すると、ポストにはハガキやチラシが溜まっていた。近所の人に聞くと、救急車で病院に運ばれたという。

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【コロナ禍が高齢者から奪ったもの】

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