「訪問看護には常に、自分1人で利用者さんの異変を察知できるかという緊張感があります。急性期と隣り合わせなんです。
たとえば、パッと見は普段と変わらない利用者さんの血圧を測ったら200以上あったとします。前後に何があったか、安静にして様子見でいいのか、主治医に連絡して指示を仰ぐべきか、今すぐに救急要請の状態か。ただちに状況を分析して判断をしなければいけません。
急性期の現場で培った経験がすごく役立っています。同時に訪問看護に求められる精度の高さに魅力を感じています」
利用者の異変の前触れは、日頃の何気ない会話の中に潜んでいることも多いと木村さんは話す。そのため、利用者とのコミュニケーションは非常に重要だ。
介護保険による訪問看護を開始する場合、事前にケアマネージャーを中心にサービス担当者会議が開かれる。利用者や家族、訪問看護師ほか理学療法士、介護福祉士などが集まって顔合わせをして、内容を確認し合う。その後、木村さんたち訪問看護師が利用者宅に出向いて正式に契約を交わす。
このように段取りを踏んでも、訪問初回からいきなり利用者にコミュニケーションを拒否されることもあるという。
「在宅療養が決まると、さまざまな書類の山に目を通して、内容を吟味して決定するという怒涛の作業が続きます。高齢で退院したばかりの利用者さんの場合、サービス内容の決定や契約がご家族に任せきりというケースも多く、利用者さん本人の本音がわかりにくいことがあります。訪問が始まって私たちに不満をぶつけて、家族があわてるといったことも少なくありません」
「右手には触らないでくれ」と抵抗
24年春からリハビリの訪問看護が始まった、杉江英樹さん(70歳)は、訪問初日から取り付く島もなかった。
前年の11月に脳卒中で倒れて救急搬送、5カ月の入院を経て、退院した。右半身麻痺、軽度の呂律障害があり、介護認定は要介護5。懸命のリハビリで装具と杖を使って歩行ができるまでに回復していたが、日常生活は妻の介助を必要としていた。
次ページが続きます:
【「背中だけだ。右腕に触ればダメだからな」と念を押され…】
