――ホルムズ海峡封鎖が世界にもたらす危機とはどのようなものでしょうか。
1973年のオイルショックは、文字通り石油のショックだった。今回エネルギー危機とも言われるが、その捉え方では狭い。さまざまな素材や食糧、場合によってはエレクトロニクス産業まで幅広いインパクトを持つ。
そしてアジアの危機だ。
2022年にロシアがウクライナに侵攻した際は、天然ガスの調達に困難が生じたヨーロッパで危機が顕在化した。ヨーロッパはロシアからパイプラインで天然ガスの供給を受けていたが、制裁により供給の多くが途絶した。その分を手当てしようとして世界中から液化天然ガス(LNG)をかき集めたため、世界のLNG価格が暴騰した。
今回は、中東諸国が供給してきた原油とLNGがホルムズ海峡の封鎖により物理的に届かなくなった。日本は原油の中東依存度は94%と高い。アジアでもフィリピンを筆頭にかなりの多くを中東に依存している。LNGの中東依存度は日本は低いが、アジアの国々はインドやバングラデシュで約60%などと高い。
LNGは特にアジアにおいて火力発電で使われている。アジアは世界のサプライチェーンの大きな担い手となっており、アジアにおいて発電が十分にできず生産活動が滞れば、世界が影響を受ける。
中東は肥料の一大供給源、食糧危機の懸念も
――危機はエネルギーにとどまらないと。
中東諸国は原油とガスを生産するだけでなく、付加価値を高めるため、石油化学産業の蓄積を進めてきた。そのため、ホルムズ海峡が封鎖されると、原油やガスばかりではなく、石油製品が来なくなる。
日本にとって一番影響が大きいのがナフサの供給支障だ。イラン攻撃前、日本で使うナフサの約4割が中東から来ていた。それがホルムズ海峡を通れなくなると、幅広い化学製品の供給に影響しかねない。
また中東諸国は付加価値を高めるため、豊富な天然ガスを使って発電し、アルミニウム地金を製造している。中東はアルミニウム地金の世界の一大供給地点だ。天然ガスから作るヘリウムも世界の生産量の3割が中東産だ。ヘリウムは医療分野や半導体製造など幅広く用いられており、中東からの供給途絶の影響は大きい。
肥料も深刻だ。中東は安価なガスにより、肥料原料のアンモニアや尿素を生産し、世界の一大供給源になっている。世界の国々は中東からLNGを輸入して自国でも肥料を生産しているため、ダブルで影響を受ける。肥料の奪い合いで価格が高騰すれば、貧しい国々ほど肥料の使用が減り収穫が減る。このままでは秋には食糧危機が懸念される。
今後、ホルムズ海峡の封鎖が解除されたとしても、LNG施設の再開を含めてエネルギー供給の回復には時間がかかる。加えて、カタールのLNG施設はイランの攻撃で設備能力の17%に被害が生じているとされ、完全復旧には最長で5年ぐらいかかるとも言われる。
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