18年を超える障がい者の平均勤続年数
特殊衣料が障がい者雇用や障がい者の就労支援に熱心に取り組んでいることも、社内外の関係者から高い評価を受けている理由です。特殊衣料の現在の社員数は121名ですが、そのうちの32名はなんらかの障がいをもっています。それぞれの希望を重視するのが前提ですが、大半は正社員です。障害者雇用促進法における民間企業の法定雇用率は2.5%ですが、特殊衣料は27.3%、重度障がい者を2名として算定する雇用率では、37.8%と、極めて高い企業です。
驚かされるのは、その定着率や勤続年数です。特殊衣料の障がい者の平均勤続年数は18年7カ月(2026年1月)。厚生労働省の調査によると、全国平均は身体障がい者が12年2カ月、知的障がい者が9年1カ月、精神障がい者は5年3カ月となっているので、特殊衣料の定着率がいかに高いかがわかります。
特殊衣料が障がい者雇用を始めたきっかけは、高等支援学校の先生から、知的障がいのある3年生の男子生徒の実習を依頼されたことでした。当時は専務だった池田さんは、幹部社員を集めて会議をしました。「現場は狭いし危険なものもある。知的障がい者の支援をした経験のある社員もいない。実習の受け入れはむずかしいのではないか」という意見が大半で、社長も否定的でした。
そのため最初はていねいにお断りしましたが、その先生は、それ以降も何回も訪ねてきました。「いろいろな会社を回ってお願いをしているのですが、受け入れてくれる会社がありません。正直困り果てています。なんとかなりませんでしょうか」と嘆願するのです。「わが子なら」という思いで教育をする、本当に立派な先生だと思います。
そのころは知的障がい者への理解が乏しかった池田さんでしたが、先生の熱意を受けて、学校での授業を見学させてもらうことにします。訪問した学校では、職業訓練に近い授業や、体力づくりにも取り組んでいました。池田さんは理解不足を反省し、「引き受けます」と、その場で先生に伝え、渋る社長を説き伏せて受け入れたのです。
その実習生には、まず試みにリネンサプライの仕事をやってもらいました。不安もありましたが、生徒が一生懸命働く姿は、池田さんだけでなく、他の社員にも大きな影響を与えました。人柄もよく、お互いに思いやりをもって仕事をしていこうという機運が社内に生まれ、彼のおかげで職場の雰囲気も明るくなったそうです。
2週間の実習は、無事終わりました。実習の終わる最後の日は、彼のために皆でご苦労さん会を開催しました。池田さんは、そのときの彼の満面の笑顔を忘れることができません。この実習がきっかけとなり、1991年春の4月1日、両親と彼の強い希望で特殊衣料に入社することになりました。本書の執筆のため、札幌の特殊衣料を訪問した折、池田さんが彼を私に紹介してくれました。
「いまもリネンサプライ部門で仕事をしてくれています。今年で34年勤続になりました」と、池田さんは感慨深そうに話していました。「知的障がいのある人は、仕事を覚えるまで時間がかかることもありますが、みな向上心にあふれ、純粋でまじめです。適性に合った仕事を任せると、すばらしい成果を出してくれます。いまは、実習生の依頼があったときはできるだけ受け入れています。実習がご縁となって当社に入社してくれた社員もたくさんいるのですよ」

