名著『夜と霧』(みすず書房)の著者で、第2次世界大戦中のナチスの強制収容所生還者でもある心理学者のヴィクトール・フランクルが述べるように、人間は意味を求める生き物です。
意味を感じられないことを延々と続けることなどできません。それは仕事でも同じです。
数日・数時間というちょっとした我慢ならまだしも、1日8時間×30〜40年続ける仕事に意味を見出さないまま続けることなど、できるのでしょうか?
静かな退職が与えるキャリアへの悪影響
また静かな退職は、その人のキャリアにもネガティブに影響します。
例えば、総合職として「いろんなことをやる」という前提で雇用契約を結んでいるにもかかわらず、上司や周囲との合意なしに、本人が必要最低限の業務を勝手に決めて、一方的に義務を放棄してしまうと、当然会社からの評価が下がります。
毎年、最低評価を取り続け、昇給・昇進もしないので、キャリアに行き詰まることは避けられません。
評価やキャリアの問題だけでなく、職場でのやりづらさも増す一方です。能動的なコミュニケーションを取らず「私の仕事範囲はここまでです」という態度で居続ければ、周囲から不審に思われ、信頼をなくしていってしまいます。
さらに貢献度が低く、将来の成長が見込めない静かな退職者は、会社の業績が傾けば真っ先にリストラの対象に選ばれてしまいます。とはいえ目立ったスキルもなければ、転職市場で評価されない可能性が高くなります。
このようにデメリットばかりの静かな退職ですが、こうした状況を積極的に望んでいる人は、本当にいるのでしょうか?
表面的には無関心や諦めに見える行動も、内心はもっと複雑なのではないかと思います。
「本当は頑張りたい。どうせやるなら楽しいほうがいいに決まっている。だけど、そのやり方がわからない」という潜在的な欲求にキャリアに対する焦りが加わって、一種の防衛機制として静かな退職につながっているのではないでしょうか。
防衛機制とは、心理学者フロイトが提唱した概念で、自分の心を守るために無意識に働く心のメカニズムです。
自分の中で受け入れがたい感情や欲求、記憶を無意識の領域に抑え込んでしまうことを心理学の世界では「抑圧(リプレッション)」といいます。
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【「静かな退職者」の心の奥にある本音とは?】
