林望が説く「電子本は読書にあらず」 紙の本の手垢と書き込みこそが"真の学び"となる理由

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文化的な営為というのは何事もそうで、たとえば音楽を聴くのに、最近は速度を速めて10分ある曲を倍速、3倍速なんかで、サササーッと聴いてしまう、というような聴き方をする人がいると聞きます。でも、果たしてそれでほんとうに音楽を鑑賞したことになるのだろうか、否、否、否、絶対の否!

味わいながらする読書

書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由 (朝日新書)
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映画もまた同じことでしょう。たとえば小津安二郎の映画などは、今から観るとものすごくゆったりとしています。笠智衆なんかがボーッと座っていて、茫洋たる口調でなにか呟くと、それに対して原節子がおっとりとした上品な口調でゆるやかに答えたり……そういう「間(ま)」で芝居が進んでいくような場面を倍速や3倍速にしたら、制作者が意図したセンチメントはみなどこかへ吹っ飛んでしまうでしょう。

「間合い」ということは、じつは非常に大切で、なにかを味わうためには、「時間」はとても必要なことです。

確かに、早送りで見ても映画の筋書きはわかります。筋だけを知りたいなら、それでもいいけれども、それでは演技している人、監督した人、脚本を書いた人の想いは、全部台無しになってしまいます。

私の大学院時代の恩師である佐藤信彦先生は、「読書は急いで読んではいけない。じっくりゆっくりと味わいながら、またその行間や裏の意図まで考え考え読まないと、読書はなにも教えてくれない」と諭されました。まことにその通りだと、私はつくづく感じます。

林 望 作家・書誌学者

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はやし のぞむ / Nozomu Hayashi

1949年東京生。作家・国文学者。慶應義塾大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得満期退学(国文学専攻)。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。『イギリスはおいしい』(平凡社・文春文庫)で91年に日本エッセイスト・クラブ賞、『ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録』(P.コーニツキと共著、ケンブリッジ大学出版)で92年に国際交流奨励賞、『林望のイギリス観察辞典』(平凡社)で93年に講談社エッセイ賞、『謹訳 源氏物語』全十巻(祥伝社)で2013年に毎日出版文化賞特別賞受賞。『謹訳 平家物語』全四巻、『謹訳 徒然草』(ともに祥伝社)他著書多数。

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